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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

大森靖子は消費されない/夏の魔物のこと

 20日のツイッターの中に、大森靖子さんが夏の魔物でのライブ中にファンとキスしたとか、MCで「私、8月に結婚するんです。結婚するんですけど、私の旦那とヤったアイドル、今日来てるからな!」と叫んだとか、あからさまな武勇伝が流れてきた。

 キスをしたというファンがBiS現場でお見かけしていたSさんというちょっとした親近感もあって、気持ちがパーッと盛り上がって、「大森さん最高だ!」と思った。知り合いの大森さんファンのMさんが、Sさんに対して敵意を燃やしているのもおもしろかった。もちろん、キスをしたSさんも、嫉妬に狂っているMさんも普段から仲良く大森さんを応援している知り合いで、だからこそあけすけに感情的になっているのを見るのはちょっと愉快だった。

 男の人が女の子に翻弄されているのを見るのも、女の子をあがめているのを見るのも楽しい。これはちょっとした屈折で、たぶん自分が手に入れたいものの投影でもあるんだろう。そうだよ、ちやほやされたいよ。それも、存在という色気と、才能という色気で。

 だから、最初に話を聞いた時には、その行動の痛快さに笑ってた。でも、しばらくして「ああいう炎上商法的なやり方で注目を集めるのはどうか」みたいな議論が出てきて、それにうまく反論ができなかった。

 BiSが全裸やハグ会などの過激なプロモーションで話題になっていた頃、私は彼女たちが知りもしない人に「ネタ」として消費されていくことに胸を痛めていた。それなのに、大森さんの話を武勇伝のように広めてしまうのは、大森さんを「ネタ」として消費することを助長しているんじゃないか。

 でも、翌日に「PARCOのキャンペーンキャラクターに選ばれた」というニュースが出たことで、魔物での出来事が最大に痛快な宣伝になった部分もあった。たぶん、楽しんでいい。話題にしていい。でも、話題にしているうちに消費されてしまうんじゃないか?

 そんな気分でいたところに、魔物での一部始終を収めた映像が公開された。「私の旦那とヤッたアイドル」の部分はカットしてあったけど、スキー場の斜面からコカ・コーラの旗を抱えて走ってくる大森さんは美しかった。

 以前、戸川純の声だけを四谷アウトブレイクで聴いたときに、「まるで魔女のよう」と書いたけど、この日の大森さんはロケーションもあって、そういう昔話の中の人みたいな存在感だった。

 キスシーンはネットのうわさほど濃厚でも性的でもなくて、どちらかというと神話的だった。

 Mさんたちが用意したピンクの紙テープも、夕暮れの濃紺になじんでとてもきれいで、美しいというのはこういうことだと証明しているよう。闇と光がごっちゃになってにぶく光る。

 よかった、大森靖子は消費されない。消費できない。

 願わくば、小心なこちらの不安を常に打ち砕くような存在であってほしい。そのパフォーマンス、音楽によって。