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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

渋谷WWWにてBiS階段(2013年8月7日)

音楽 舞台 アイドル

 高校から大学の頃は寺山修司が好きでした。

 多才な人なので、詩や映画など彼の作り出したいろいろなものに楽しませてもらっていましたが、一番強く憧れたのが、彼の企画したという市街劇でした。

 街を劇場の一部にして、お客がみんなでマンションの1室に上がり込んだり、箱に人を詰めて運んで、いざ外に出してもらった観客は自分で帰り道を見つけなくてはいけないとか。寺山の市街劇がどこまで実行されたのかわかりませんが、自分の住んでいる場所・日常を能動的に面白い場所に変えていくというアプローチがとてもかっこよく映りました。

 今思うと、文化系のための不良だったんですね、寺山は。やっちゃいけないことや、人に怒られそうなことをやってくれるって意味でね。

 寺山は1983年に亡くなっていて、彼の演劇活動を引き継ぐ形で生まれた「演劇実験室万有引力」が定期的に寺山作品を上演しています。

 私は1度寺山の映画上映と「万有引力」スタッフ(どなたかは忘れました)のトークイベントを観にいったことがあるのですが、その時に「観客にスイッチを持ってもらって、見たいところにスポットを当てるような劇も面白いのでは」と話していて、それがかつての寺山の提案よりずいぶんスケールダウンしたように感じられてしまってがっかりした記憶があります。

 これは寺山ではありませんが、似たようなコンセプトの野外劇へ参加した時も、そのすべてがどこか予定調和に感じられてしまって残念に思いました。

 面白いことは70年代にみんな終わってしまって、あとはスケールダウンしたパクリかテーマパークにしかならない。私たちに残されたのは楽しかった時代の残滓だけなのかもしれない。けっこう長いこと、そんな風に思っていました。

 初めて参加したBiS階段のライブは2013年の8月7日、渋谷WWWでした。

 パルコの向かい、スペイン坂に列を作りながら開場を待っていると、誓約書が配られます。「1.当該のコンサートの開演中にいかなる事故が発生し危害が加わろうと主催者側に何ら責任がないことを誓約いたします。」その演劇的な悪ふざけにわくわくしながら署名をすると、大量の黒眼鏡のフレームを持って売り歩いている人がいました。黒眼鏡はBiS階段の衣裳のひとつです。

 「なんか、みんなでつけたら面白いかなと思って」

 ひとつ購入。200〜300円だったと思います。

 中に入ると、会場の床はもちろん、舞台の中も天井近くまでブルーシートが敷かれ、昔テレビで見たオウム真理教の基地のようになっていました。

 BiS階段の限定Tシャツを着て、メンバーがいつも通りのBiSのライブを開始。曲も歌もテンション高く、メンバーもワクワクしながらコラボを待っているのが伝わります。

 あっという間にBiSのライブが終わり、非常階段のライブがスタート。強烈なシャウトとギターとノイズが延々と繰り返されるそのパフォーマンスを聴きながら思い出していたのは、法事中に聴いた和尚の般若心経でした。全然湿っぽいところのない、それでいて妙に退屈しない、不思議な音楽。気持ちよい音階を奏でているわけではなく、言うなればセミの声のもっと騒がしくて暴力的なやつとでも言いたくなる音や、ガラスをひっかいたときのような不快な音の積み重ねなのにその音に沈んでいたいような緊張がある。目の前の非常階段ファンらしき女の子が、頭を振りながら踊っているのを見て、涅槃にBGMがあるとしたらこんな曲かなと思いました。

 そして、BiS階段戸川純リスペクトということで、白セーラー服に黒縁四角メガネのメンバーが舞台の上にぞろぞろ出てきます。

 どこかそわそわした雰囲気で始まったライブは、いきなりメンバーがはいていたTバックを観客に向かって投げ始めるところから始まりました。会場一杯のオタクがそのパンティーをつかみ取ろうと右往左往している様子は、まるで池の鯉みたいで、とてもバカバカしくて痛快でした。その間にも演奏は続き、ひっきりなしに会場にモノが投げ込まれてきます。

 イカとか、ブタの頭とか、バスクリン(?)の入った水とか、鶏の足とか、一斗缶とか。それを受けて過剰に盛り上がる会場。

 台風で傘を吹っ飛ばされた小学生が、ヤケになって大はしゃぎしているような感覚。メンバーは歌いながらひっきりなしにモノや水を投げてきます。テンコ推しのTさんが海パン姿でクラウドサーフしていて、まるで観客と舞台の上のどちらもが見世物小屋になったような光景でした。

 よく覚えているのは、「eat it」の「Please love me もっと」のところで、全力でパンツを投げるウイぽんの不思議な神々しさ。寺山修司好きで、舞台役者だったという彼女のアングラなエネルギーがキラキラと光っていました。それから、これもたしか「eat it」でダイブしてきた時のサキちゃんの恍惚の表情。そして、それを全力で受け止める研究員たち。

 すごくバカバカしくて、暴力的で、痛快でした。BiSがパンツを投げるのはBiS階段が初めてでは無く、TOKYO IDOL FESTIVAL 2012ですでにやられていることなのですが、そういう客を馬鹿にした姿勢がすばらしいし、それを全力で楽しむ客側もすごい。

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 同時に、今まで劇場型のイベントやワークショップが予定調和に終わってしまったのは、観客が受動的だからだったんだなとも気づかされました。

 こんなアクティブでアングラな場所が、2010年代にもちゃんと生まれるんだ。アイドルって、オタクってすごい!

 びしょぬれのTシャツを着替えて、ワクワクした気分で会場を出ました。

 でも、帰ってTwitterで感想を検索していると(この頃お金無くて現場数少なかったから、すごく人の感想を読んでいた)けっこう「まあ、楽しかったけど、音楽としてはイマイチ」「もっとやれるはずだし、受け止められるはず」という感想がけっこう目に入ってきて、それにまたびっくりしました。

 ノイズという明らかにニッチな音楽をきちんと受け止めて、批評し、さらにBiSにそれ以上を望む人がいる。「それ以上を望む」というのは、それ以上を知っていることでもあり、BiSにそれだけ期待をしていることでもある。

 そういう愛され方をしているというのがとても新鮮で印象的でした。