地元にそこそこ有名なスペイン料理屋がある。
昔はフラメンコライブが名物で、もう20年弱前に家族で訪れた時には「フラメンコやライブ演奏の邪魔になるから小学生以下はNG」ということで、入店を断られた店だ。
みんなとっくに成人した今、改めて入ってみたら、そんな制約はなくなっていて、ライブ演奏なんか影も形もなかった。
奥の方ではまだ幼稚園だろうという子供たちもご飯を食べていて、少し寂しい気分になった。
もう、あの頑固な店はないんだ。
それでも、オリーブオイルべったべたの料理はとても美味しかったし、日本人からすると過剰なまでの油はむしろ異国情緒があって楽しかった。
何より、パエリアの平鍋についたおこげを削り取ろうと格闘していたら、お店の人がパーフェクトなおこげ削りを見せてくれたのには感動した。
パエリアは生の米とそれ以外の材料に火を通すために、平で均等に熱が行き渡る鍋に米や野菜を敷くのだけど、それが鍋におこげとなって貼り付く。
これをこそげるために、中央をフォークの先で抑え、鍋を固定させてスプーンでガリガリ削っていく。
鍋中に貼り付いたおこげがすごい音を立てながら中央に集められていく手際は美しかった。
プロの仕事にはリズムがある。
ライブは見られなかったけど、リズム感のあるそのガリガリだけはちょっと音楽的ですらあったかもしれない。