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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

アイドルを国際式典に出していいのか?異ジャンル対バン「三都爛漫〜時空を越えた音絵巻」

ある2ちゃんねるまとめに、「同じ異ジャンルの対バンでも最後まで交わらない感じで2大ヒーローのコラボ映画を見に行ったつもりが2本立ての短編映画だったような感覚」という秀逸な表現があった。

うん、いい対バンライブって「1+1=2」じゃなくて、「(1+1)の○乗」みたいに、お互いの魅力が何倍にもなって返ってくるライブなんだと思う。

そういう意味では、東アジア文化都市2014オープニング式典&コンサート「三都爛漫〜時空を越えた音絵巻」はまるで「(1+1+1+…)の2!」という魅力がふくれあがっていくようなコンサートだった。

東アジア文化都市2014とは、韓国の光州広域市・中国の泉州市・日本の横浜市の3都市が共同で、多様な文化芸術に関するイベントを行うという国際交流プロジェクトだ。
オープニングコンサートは、日本のあちこちから一流の演奏者を呼んで、それをバックに各国の代表がパフォーマンスをするというゴージャスなものだった。

韓国代表テノール歌手のベー・チェチョル
甲状腺ガンの手術によって一度失った声を、日本のクリニックでのリハビリによって取り戻したエピソードで有名だ。

中国代表は二胡奏者のウェイウェイ・ウー
日本のテレビ番組のテーマ曲の演奏を手がけることも多く、横浜の中国茶房・悠香房でもよくミニコンサートをやっている。

親日家で一流どころの演者を揃えた中韓に対して、日本の代表はわれらが秋葉原発アイドルグループ「でんぱ組.inc」だ。
えっ、いいのか、アイドルで。

国際的式典にアイドルといえば、思い出すのはASEAN首脳会議の夕食会で「恋するフォーチュンクッキー」を披露したAKB48。ちなみに、この式典にはEXILEw-inds.も登場している。
いかにも有権者に媚びたこの選抜に対し「あんな歌もダンスも下手くそな連中を各国のお偉いさんの前にあげるな」という批判が集まった。

アイドルに対する偏見を感じる部分もあるけど、こういうことを言いたくなる気持ちはわかる。

私はアイドルもアイドルのライブも好きだし、心を揺さぶられるけど、それが技術的に質の高いパフォーマンスかと言われると大概「ノー」だ。
感動と質の高さは別物だから、普段アイドルを見る分には別段それを不満には思わない。
でも、国際的な式典に出て、国の代表にふさわしい心を動かすパフォーマンスができるかと思うと、ちょっと心もとない。

これは、ポップミュージックのアーティストが、言葉も文脈も共有していない相手の心をゆさぶることはできるのかという問いにもつながる。

前二人のパフォーマンスのあとで、「でんぱ組.inc」がかすんで見えてしまったらどうしよう。
そんな心配も少し抱えながら会場へ足を運んだ。

音楽好きでアイドル好きのUくんと合流して中に入る。
みなとみらいホールは椅子席が棚田のように段差がついていて、どこの席からでも舞台がよく見えるつくり。
かなり後ろの席だったが、全体がよく見渡せた。

舞台の上には民族楽器、尺八、篳篥(ひちりき)、ドラム、アコースティック・エレキギター、ピアノ・キーボード、アコースティックベース、エレキベース、パーカッション、特別編成弦楽アンサンブルの奏者が座る。
オープニングの1曲は「越天楽」。
これがカッコよかった。
異なる分野の奏者が、それぞれ互いの音を聴きながら、最上のバランスでひとつの音楽を作ろうとする。
でしゃばることなく、しかし、引くことなく、音楽を奏で続ける奏者たち。
まさにセッション!
しかも祝詞付き!

最初の1曲から感動していると、となりのUくんも「かっこいいっすね…」とため息。
オーケストラによりセッションが終わり、ウェイウェイ・ウー、ベー・チェチョルが交互にパフォーマンスを披露する。

全快という感じではなさそうだけど、安定感のある歌声のベー・チェチョル。「誰も寝てはならぬ」は、会場全体の空気が震えるような迫力。

二胡ののびやかで明るい音が魅力的なウェイウェイ・ウイー。馬の走る様子を二胡で再現した「賽馬」では、柔らかなイメージを覆つような荒々しく生命力にあふれた音色を響かせる。

卓越した技術を使いこなす歌い手と奏者の後ろで、これまた質の高いオーケストラが響く。

ディジュリドゥ奏者のKNOBは象の叫び声のような音色を鳴らし、サビの部分で思わずコンサート中に立ち上がる。みんなノリノリなのだ。

ごちゃごちゃしてるのに、とびきり高度で洗練されたお祭。

しかし、最初にこんなすごいパフォーマンスのあとで、でんぱ組.incだけ「まあ、ご愛嬌」みたいなことにならないだろうか……。

休憩に入り、オーケストラが舞台後方に下がり、でんぱ組.incのためにダンス用のスペースを作る。

オーケストラが鳴り出し、「ハジマリ」という曲に合わせてメンバーが入場し、CD音源に、一部オーケストラの演奏をプラスした「でんぱれーどJAPAN」が始まる。
……と、ともに立ち上がってサイリウムを手にコールを叫ぶオタク!
「え〜〜、うっそぉ〜〜」というオタクじゃない人の声が後ろから聞こえる。
その反応、正しい!!

ざわつく他のお客さんを尻目に、躊躇なくヲタ芸を打つわ、コールするわのオタクたち。いつもと違うのはリフトがないことくらい。

そのいつもどおりに答えるようなパフォーマンスを繰り広げるでんぱ組.inc
みなとみらいホールは最高の音響で、聴きなれたでんぱ組.incの曲がいつも以上にシャープに響く。
堂々としたメンバーのパフォーマンスに、臆することのないオタク。そして最高の音。あっという間に最初の2曲が終了。
3曲目はくちづけキボンヌ。二胡の穏やかな演奏に誘われ、静かに照明が落ちていく。オタクも席について静かにサイリウムを降ってケチャを送る。

その間、豪華オーケストラがずっとでんぱ組.incの曲を演奏し、パフォーマンスを支える。

最後の曲は「でんでんぱっしょん」。出だしの小芝居のセリフを「親善大使なんて不安だなあ」というセリフに変えて4曲を歌いきった。

アイドルとオーケストラの間にちゃんと一体感があって、でんぱ組.incのメンバーはアウェイの中で、オタクにのまれず力強いパフォーマンスで。
秋葉原発なのに渋谷系楽曲を持っていたり、田植えの様子をダンスに取り入れたりしている「でんぱ組.inc」の雑食具合は、イベントの〆として妙にハマってた。

立ち上がると後ろの人が見えないとか、コールがうるさくて歌が聞こえないとか、そういう遠慮をふっとばすオタの皆さんの奔放さは賛否あると思う。

でも、カオスなイベントをカオスな渦に巻き込んで締めくくる終わり方はすごくバカバカしくて、とても風通しがよかった。

全然違うもの同士が音楽というひとつの共通項に束ねられて同じステージで笑っている。あったかいおおらかさがそこには満ちていた。

最後は3国コラボレーション。「故郷」を、1番はベー・チェチョル、2番はウェイウェイ・ウー、3番をでんぱ組.incが歌って終了。
故郷の合間にも一部のオタク(私含む)が曲中にケチャを送っていたのだけど、二胡の演奏の合間はなんとなくやりづらそうで、ちょっぴり笑ってしまったり。

「(1+1)の○乗」。
演者の数だけ○に数字を入れたくなるような幸せな夜だった。



―終演後のウェイウェイ・ウーさんのツイート