ホンのつまみぐい

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「でんぱ組.inc」がメディアだ!

 横浜へそまがりというコーヒー屋兼漫画喫茶は、小さな一軒家を改造して作った店で、部屋中に漫画を敷きつめている。

 店長は元ヴィレッジヴァンガード勤めの某さん。大柄な体躯で穏やかに話す、若い熊のような人だ。あんまりなれなれしく話しかけてこないところや、漫画のセレクトがいかにも物語好きな人が選んでいるという感じなところがよい。

 コーヒーを頂きながらポメラをいじっていると、lyrical schoolの清水裕美ちゃん似の女子高生が入ってきた。きれいにカットされたおかっぱと、セーラー服にセーターを合わせたシンプルな服装がかわいらしい。

 彼女が「年末にへそまがりで開催されるライブに自分は参加できない」ことなどを、なじんだ様子でつらつら話すのを聞いていた。

 Lineのアイコンのダサさが許せない話をしながら、私がふと「アイドルはダサい。なぜなら、オシャレは人をより分けるからだ。アイドルは分け隔ててはいけない。ダサいというのは優しさなんだ」という、友人の説について話したところ、その女子高生とアイドルの話になった。

 某さんから借りたipadで「でんぱ組.inc」「バンドじゃないもん!」「アフィリア・サーガ」「いずこねこ」など、いろいろなアイドルのPVを見ながら盛り上がる。

 そして、彼女はビジュアル系バンドが好きで「SuG」というグループが自分に取っていかに大切な存在かを話してくれた。

 ボーカルの武瑠くんがPVや衣装のプロデュースも自分で手掛けていること。パニック障害持ちであること。「浮気者」という名称でさまざまなクリエイターとコラボレートしていることなどを話してくれた。

 こちらからするとほとんど同じように見える化粧の仕方にも特徴があるらしい。メジャーなバンドはきちんとメイクの上でも差別化ができているけど、マイナーなバンドが集まるとメイクもどれも似たり寄ったりになってしまっておもしろくないそうだ。

 小学校高学年の時から6年間ファンをやっているという彼女の話は「生まれて初めて出会った、とてつもなく魅力的なもの」について語っている感じが、とてもみずみずしかった。

 出会うもののほとんどに既視感を感じてしまう年齢の自分からすると、懐かしいようなうらやましいような気分になる。

 ライブではクラウドサーフするファンもいるという熱狂の度合いも含め、アイドルとビジュアル系は近い文化という印象を受けた。

・アパレルブランドとコラボする
・ファンがそのブランドを着てイベントに集合する
・パフォーマンスだけでなく、本人のキャラクターや背景込みで熱中する
・ライブ中にお気に入りのメンバーに対するコールが入る

 演者だけでなく、観客も参加者となり、物語に入り込むスタイル。これまでジャニーズ以外の男性アイドルが存在しないことを不思議に思っていたのだけど、ビジュアル系も一種のアイドルなんだと感じた。

 また、彼女の話で印象的だったのは、SuGの存在が彼女にとってさまざまな新しいものに出会うきっかけになる雑誌のような存在―メディアになっている点だ。

 これは私が「でんぱ組.inc」にはまった頃の感覚に近いのではと思う。曲や歌詞、衣装、アートワークに加え、「コアなオタク」であるメンバーそれぞれの個人仕事からもあちこちの新しい文化に接続する事が出来る。

 曲は玉屋2060%に小沢健二かせきさいだぁヒャダイン前山田健一)、小池雅也にBeasteeBoys。歌詞は畑亜紀に只野菜摘。衣装は坂部三樹郎に縷縷夢兎(るるむう)、村上亮太。杉山峻輔の通常版・CD+DVD盤が印象的だった「でんでんぱっしょん」の際は、そのほか各メンバー版ごと、ジャケットのアートワークにそれぞれ違うデザイナーを使ったというのも面白い。

 もふくちゃんはたしかideaのインタビューで、積極的に若いクリエイターを使うように話していたと思うが、それがとても「でんぱ組.inc」の存在をアイドルとして厚みのあるものにしている。

 メンバーの個人仕事に関しては、プロデューサーの福嶋麻衣子がグループ終了後を見据えてそれぞれの個性にあった仕事を振り分けていった結果でもあるのだと思う。

でんぱ組.incを見ていると、新しくて刺激的なものに出会える」というこの面白さは、ほかのアイドルグループが追いつけていない個性だと思う。

 いや、非常階段、ソウルフラワーユニオンKEMURIらとコラボする「BiS」も似たような楽しみを与えてくれるが、でんぱ組.incほどの情報量は持ち得ていない。

 そういう意味では「でんでんぱっしょん」の「世界中に連れてっちゃうけど」は、最近彼女たちがジャパンカルチャーのアイコンとして海外でのライブをする機会が増えてきたこと以外に、でんぱ組.incを通して出会う新しい文化の世界に接することも指すのだと感じられる。