ホンのつまみぐい

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「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術」

横浜美術館
 横浜美術館 4月13日〜6月16日

 九州7県全部も怪しいのに東南アジア諸国のことなど知るはずがなかった……。恥ずかしながらどの国がどの言語を使っているかもきちんと把握していない。

 そんな無知の影響で、かえって何もかもが新鮮で楽しめた面と、よく知らないために味わいきれなかった部分にわかれたかもしれない。日本の現代美術は「内省的」か「パロディ」かのどちらかが多いように思うけど、東南アジアは美術を通じて社会に政治的なメッセージを発信することにためらいがないようで、かなりストレートな表現が多かったように思う。

 個人的には、東南アジアでも懐かしの風景になりつつあるという屋台の写真が面白かった。ノスタルジックに屋台を撮影する目線は日本にも共通する感覚だけど、色彩感覚がまったく違う。夜の光の中にたたずむ屋台が、緑や赤をところどころに差し込みながら、玉虫のようににぶく光っているのである。

 テーマは珍しくないというか、日本にとっては通過点とも言えるものだけど、だからこそどういう感覚の違いがこういった写真を生み出すのだろうと興味が湧いた。

 ただ、白い布で出来た筒をのぞくと「ワールドクラスとは何か」について演説している男がいるが、筒が長いため男の顔はよく見えないというインスタレーション「世界標準社会」や、スカーフで体を打たれる男のインスタレーション「赤いスカーフ/ムチの跡」なんかはもう少し洗練された物がすでに作られているのではと思ったり。

 また、ついつい土着的なモチーフを用いたものが作品として印象に残ってしまい、日本の作品が海外に出る際も、「そういうオリエンタリズムを排除してフラットに評価してください!」という意気込みはおそらく通じないのだろうなとも感じた。

 美術館での鑑賞しばらくしてオーサートークがあったので、聞きにいった。

 展覧会カタログを編集した大谷薫子さんと、横浜美術館のキュレーターの木村絵理子さんのトークイベント。主役ふたりも、客も、配られた酒を呑みながらというゆるゆるなトーク。しかし、かなり面白かった。

 もっとも印象的だったのは、キュレーターの木村さんのシンガポールでの体験談だ。

 震災直後、気持ちがまいっていた木村さんは、個人的にシンガポールに旅行に出かけ、そこでの対応にいい意味もショックを受けたという。

 「こっちにも津波地震があるけど、それも人生だよ」という明るい励まし。さらに、原発についても「だって、あれは日本人が選んだことでしょう?」という反応だったそうだ。東南アジアには正統な選挙が行われていない国もある。欧米からも心配のメールをもらっていたけど、そういった心配の気持ちに距離を感じてしまっていた時に、この対応はとても心を軽くしてくれたという。その時の経験が今回の展示につながっているという話だった。

 また、日本の現代美術について「自分の作品が社会に働きかけることができるかを信じていない」(東南アジアの作品と比べて)という言葉もあった。

 その後の呑み会でうかがった話もいろいろ面白かったのだけど、美術館のキュレーターは博物館とは似て非なるものだという自負が感じられて、それが非常に興味深かった。キュレーターがみなそうなのかはわからないけれど、木村さんは美術館というのを「体験」の場としてとらえているようだ。

 わかりやすい例で言うと、寒い時期の展示の際は、「寒風の中を厚いコートを着て歩いてきた人が最初に目にする」ことを考慮して作品を配置するなど、季節や天候に配慮した展示は当たり前に行われているらしい。

 美術館は、単に作品を見て情報を上書きするだけでなく「体験」をする場所である=体験が存在する展示がよい展示であるというのは、言語化できないまでもうっすら感じていたことだったので、はげまされたような気持ちになってうれしかった。

熱々!東南アジアの現代美術

熱々!東南アジアの現代美術