ホンのつまみぐい

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波止場のホビット

 港町の波止場の近くで、生搾りジュースを売っている若者二人がいた。

 値段は一杯400円。生の果物をまるまる一個使うとはいえ、ここが船だのを見に来た観光客が集まる土地とはいえ、気軽に払える値段じゃない。

 それなのに切れ目無く人が訪れて、ジュースを買っていく。なんでだろうと思って見た先に、まるで指輪物語の中のホビットのような青年がいた。まんまるの顔に、まるで西洋の絵本に出てくるお月様のような少しふくらんだ口元。さらに、茶褐色のジャケットにグレーのTシャツを着たその姿は、そのままクワを担いで農作業に出かけそうな空気を醸し出していた。

 ホビット青年は果物を筒の中に入れ、てこの原理で体重をかけて果汁を絞り出すシンプルなハンドミキサーで、手際よくジュースを作っていく。

 よくよく耳をすますと、理知的で度胸の据わった表情で、押しつけがましくない程度にうまくジュースをおすすめしていく。

 ホビットが作るジュースならおいしいに決まってる。ビジュアルが説得力を持つってこういうことか!

 こちらが勝手に物語や文脈を作ってしまうような存在感のある肉体って、本当に見事だ。