ホンのつまみぐい

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恋は正しくない「つなぐと星座になるように」雁須磨子

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 同居人の大事なフィギュアを小金のために売っぱらったり、自分のことが好きな女の子に、借金をかぶせて逃げるって言語道断なのに、そんな男・憲章をいつまでも好きな瑠加の気持ちが一ミリもわからないよ!

 でも、私がどう感じようと、物語の中でどれだけ適当に扱われようと、瑠加にとっては憲章を好きって気持ちがいろんな優先順位の上位なのだからしょうがないんだな。

 「つなぐと星座になるように」の主人公、天ケ瀬瑠加はダメ男・憲章に借金を押しつけられ、仕方なしに姉の水美の部屋に転がり込む。稼ぎのよい仕事を探しながら東京で生活する瑠加は、次第にメイド喫茶のバイトでの新しい友人や、姉の恋人・黒田ら、多くの人々と関わり始めるようになる。ある日、偶然にも憲章と再開した瑠加は、お調子者のうそつきと知りつつ、彼とよりを戻してしまうが……。

 私の基準で見ると、瑠加はつまらない男のために時間を浪費しているとしか査定できないので、たぶんリアルに友達だったら上から目線で説教すると思う。

 でも、雁須磨子のマンガは人の人生を「正しい」方向に持っていくためのマンガじゃないから、そういうことはなく、瑠加は憲章を見直したり、不安になったりしながら、それでもそれなりに充実した日々を過ごしていく。帯にも「しょうがない もう何もかも しょうがない しょせんこの世は惚れたが負けだ」と書いてある。

 個人的にはそういう政治的に正しくない恋愛はあんまりしたくない。いや、違う。自分が優位に立てない恋愛はしたくない。自分のことを好きじゃないかもしれない相手を追い続けるのはしんどそう。

 でも、恋愛は数少ない「正しさ」から逃れられる一対一で、だからこそ特別だ。十人十色で幸福の方法論もいろいろで、幸福な恋愛の着地点も人の組み合わせの数だけある。

 一方で、相思相愛だけど幸福の方法論が違う黒田さんと水美はすれ違う。結婚することがゴールで愛情だと思ってる情の深い男子・黒田さんと、「仕事に注力したいから別居させて」とか言えちゃうくせに情の深い女子・水美。愛情は通っているにも関わらず、着地点がはっきり見えない。

 いや、そもそも雁須磨子の描く人間は、変化がとても見えづらい。同じ人がいろいろな色を持っていて、誰かがふとしたはずみでそれに気付いた瞬間に、関係性がゆるやかに変化する。

 たとえば、私がこの巻で一番好きな、メイド喫茶のバイト仲間、長身美女コスプレイヤーの譲と、芸能人に憧れるアグレッシブな野乃の二人と瑠加が食事をする場面。芸能事務所らしきところに所属している譲は、不器用でかたくなな性格でまわりとなじめていない。譲は深夜の特撮番組で女幹部役を射止めるが、まわりの人間は、みな譲を褒めそやしながら、特撮を見下し、彼女のかたくなさを陰で批判する。それにうんざりした譲は、ますますまわりを見下してしまう。

 譲が特撮をやると聞いて、瑠加は最初に「月9とかもいけるんじゃって思うけど」という。譲はそれを聞いて一瞬ムッとするが、瑠加が「……だけどやっぱ 好きなんだねえ…… 情熱ってゆーか」と続けるのを聞いて、「あいつらとはちょっと違う」と思い直す。

 関係性の変化をささやかな一瞬に押さえ込む作劇も相まって、すでに雁須磨子史上最長の連載であるにもかかわらず、彼らの物語がどうまとまるかは予測が出来ない。

 瑠加の周辺の人間関係は、深夜の特撮番組の立ち上げを通じて、仕事の上でも交錯しはじめる。仕事で関わり始めるということは、恋愛が終わっても終わらない縁が出来たということだ。

 雁須磨子のマンガはほとんど全部ハッピーエンドだから、今作もきっとハッピーエンドで終わるだろう。でも、この作品のハッピーエンドは、誰かと誰かの恋がハッピーで終わることではなく、誰かとの恋が終わってしまって、それでもハッピーであることだったりするのかもしれない。