- 作者: 今敏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/01/21
- メディア: コミック
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アニメ映画「パプリカ」「東京ゴッドファーザーズ」の監督として名高い今敏が、1990年にヤングマガジンで連載した作品。
海沿いの町の神社には代々継承されている「海人の卵」という物体があった。埋め立て開発をもくろむリゾート会社と神社の現住職は「海人の卵」を観光資源として利用し、開発を押し進めることをもくろむ。
住職の息子である主人公は、小さい頃からずっと卵の入った器の水を取り替えていた。都会に憧れる青年に成長した主人公だが、「海人の卵」をないがしろにする大人たちに違和感を感じている。彼を目撃者として、漁師と開発側の対立、不思議な卵が引き寄せる現象が描かれる。
最後には「海人の卵」はただの伝説ではなかったことが明らかになり、自然界への畏怖を忘れた人間への鉄槌として町が津波に覆われる。町民と和解の上でリゾート開発は縮小した上で継続することになり、町の再建にいそしむ人々の姿が描かれて終わる。
町が津波にのまれることによって浄化され、人々が再建のために結託するというのは今では絶対に描けない大様さだ。主人公の葛藤があまり描かれていないため、行動に共感しづらいのが物足りない。先代である祖父と、開発について対立していた現住職が主人公の方がよかったかも。
ただ、スクリーントーンとベタで影の陰影をかき分け、陽射しの暖かさまで感じさせる作画はとても美しい。
背景に光を溶け込ませ、人物と背景を一つの絵として完成させるこの画面作りは、アニメーターの得意分野なのだろうか? 安彦良和・坂口尚→大友克洋→今敏と、大友を挟んで存在するミームなのかも。同じ「人物と背景が融合して一つの絵になっている」画面でも、松本大洋らと全然違うのがおもしろい。
(上から今、大友、坂口、安彦、松本)