3月末に「でんぱ組.inc」を見てから、ひたすらアイドルについての知識を蓄え続けた4月。ほぼ毎日のようにアイドルPVを流しながら作業という状況が続いている。
これまでほとんど興味のなかった分野なので、何もかもが新鮮だ。フェスなどの多くのアイドルやバンドが出演するイベントでは演者に近い舞台袖をオタク同志が譲り合う(譲らない人もいるだろうが)。握手会を「接触」、AKB48など秋元プロデュースを「よんぱち」と呼ぶなど、独特の文化がおもしろい。
私が現在応援しているアイドルは2つ。地下アイドル「でんぱ組.inc」とご当地アイドル(ローカルアイドルと呼ぶ)の「Negicco」だ。この2つのチームの共通点は、いわゆる大手の音楽・芸能事務所つきのアイドルではないので、ダンスや演出、衣装などを自分たちで選んできたという部分にある。
古川未鈴の「アイドルになりたい」というがむしゃらな意志から、メイド喫茶兼ライブハウスのディアステージで生まれた「でんぱ組.inc」と、やわ肌ねぎのPRのために集められたユニットとして誕生し、スクール閉校、メンバー離脱、ローカルから抜け出せないあせりなどと闘いながら10年の歳月を共にしてきた3人組アイドル「Negicco」。
彼女たちの道程には、端々に彼女たち自身の意志が見え隠れして、それは弱小どころか手作りといっていいような悪条件だからこそ見える、いや、本来なら見せてはいけないかもしれない生々しさでもある。
しかし、だからこそ彼女たちのことは安心して応援できる。行動を事務所や資本に強要されているのではという不安を抱えながら見なくてすむからだ。
ほら、「坊主になったり」「枕営業してるっぽかったり」「下着でPVに出たり」「朝9時から21時まで握手会」とか、納得してやってるのか不安になるじゃない。
もっとも「下着でPV」に関しては女の子たちに主体があるという考え方が出来ないことはない。たとえば、「かわいい女の子の服の下はどんなだろう?」という妄想を撮影するというコンセプトで、着衣の写真と下着姿の写真をレイアウトする「妄撮」シリーズで、「でんぱ組.inc」の未鈴ちゃんと夢眠ねむきゅんはパンツとブラジャーを見せている。
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性的に見られることに怖じけづくことなく、主体的に向きあうアイドルたち。しかし、この撮影が成立したのは、そもそも彼女たちのプロデューサーであるもふくちゃん(福嶋 麻衣子)との信頼関係が大きいのではないか。
未鈴ちゃんとねむきゅんの撮影における現場の状況については、企画者である小林司氏がブログにこんな言葉を残している。
もふくちゃんに監修してもらったのも、彼女は女の子=タレントたちに強制を強いる人ではないので、そのもふくちゃんを通して手を挙げてくれた意欲的で創作欲に溢れた女の子たちとの共同作業に近かった、というのが創っている感触でした。
もふくちゃんは神聖かまってちゃんのマネージャーである劔樹人さんとの対談で、こうも話している。
大手事務所のようなバックアップはないが、そういう点では「でんぱ組.inc」は守られたアイドルだし、「Negicco」も苦労を乗り越えてきた彼女たちの冷静さによって、仕事をきちんと選択できている。「AKB48」に代表される秋元プロデュースアイドルは、このあたりに安心できる要素がない。
また、アイドル文化に接した際に好意的に感じた「舞台間近の人が集まる場所では女性が潰されないようにする」「正面を譲り合う」という習慣。あるいは「ひいきはいるけれど、グループ全体が好き」という状態を表す箱推しという言葉。売上を票数としてファンを闘わせるシステムの上成り立つ「AKB48」では、ファン同士の対立を避けられない。前田敦子が大島優子ファンに罵倒されたように、ライバルとなるアイドルがファンにとって仮想敵になる。
また、「でんぱ組.inc」や「ももいろクローバーZ」「Negicco」の曲やダンスは、ひとつひとつが彼女たちのために与えられていて、他のメンバーでは代替不可能なことも少なくない。いっぽうでセンターを票やじゃんけんで争わせるというシステムの秋元プロデュース。裏を返せばセンターというポジションすら替えが利くと証明しているようなもので、そこに「この子のために用意された曲やダンス」はあり得ない。
ファンはそういった大人の事情を乗り越え、なお栄光をつかみたがるメンバーの様相に感動しているのかも知れないけれど(でも、それって残酷ショーじゃないの?)。やっぱりアイドルは「女の子で人間」だから、人間として扱われているのを見たいし、アイドルのファン同士が互いを憎み合うことで増進する売上を肯定したくはない。
当たり前のように「女の子で人間」なアイドルたちが天下を取った後に、彼女たちを追ってどんなアイドルが生まれてくるのか。そこまで含めて今後はアイドルを応援していきたいと思う。
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