ホンのつまみぐい

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赤ん坊が4本足のダンゴムシに見えた

 友人の家に行って引っ越しの手伝いをしてきた。

 友人は夫婦で「四季賞クロニクル」を所有していたというオタク夫婦だ。四季賞アフタヌーンがもうけている新人賞で、松本大洋からひぐちアサまで、様々な作家を排出している。四季賞クロニクルはそんなアフタヌーンの作家の、四季賞受賞作のみを集めた受注生産のBOXで、まず持っている人が結婚する確率は高くないはずだ。運命の相手だったのか。
 
 さておき、そんなふたりには2ヶ月前に子どもが産まれた。「おなかの中に人が!」という告白ツイートから、実家に里帰りしたタイミングで「早産の危険あり、絶対安静を言い渡された雪の日」までをツイートで読んでいたので、産まれた子どもに対面した時はテレビでずっと見ていた小動物を目の前に見たような気分になった。
 
 たかだか6時間ほどの間だけど、赤子に長時間接するのは弟が産院から家に来た26年前以来だった。赤ん坊や幼児というより、赤子。まだまだ胴が重すぎるので、手足をバタバタさせても体が動かない。ひっくり返されたダンゴムシのようだ。なるほど、たかが寝返りが感動的なはずである。体重を起こすだけの筋肉がついて、体をその筋肉と体重で起こすという動作をコントロールできないと寝返りはうてない。

 私の母は、私が初めて寝返りを打った際の表情を撮影している。写真は寝返りを打った直後をとらえていて、瞳孔と口が開ききったその顔は「ありえないことが起こった!起こした!」とでも言いそうだ。月齢4ヶ月でもちゃんと自我や内面があるということがその写真からよくわかってとても興味深い。

 さて、手伝いは本屋と編集者という読書家夫婦の持つ膨大な蔵書を淡々と箱に詰めていく作業だ。本を触るのは楽しい。私が選ばなかったたくさんの本と選んだいくつかの本。夕方までに出来た10箱の段ボールに、ちょっとした達成感を感じた。

 本を触る作業は簡単に幸せになれる。でも、本を触る仕事はそれなりに競争率が高い。

 最近仕事についてよく考える。ここのところで共感したのは「あたたかい水の出るところ」に出てきた看護師さんの話だ。看護師は国家資格だけど、負担も大きい仕事である。なぜ看護師を選択したのかという問いに、彼女は「病院の空気が好きだった」という趣旨のことを答える。仕事についてお金の面で報われることを期待できない場合は、そういう感覚的な選択はかなり堅実なのかもしれない。

 農業高校を舞台にした「銀の匙」も、おそらく主人公が仕事を選べるようになるまでの話で、そういうことが高校生くらいの読者を対象にした物語で大きく扱われている現状ってすごいなあと思う。「銀の匙」はマンガ大賞を受賞したけど、現役高校生はどういう気持ちで読んでいるのだろう。
あたたかい水の出るところ銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)