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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

『グラゼニ』中継ぎというポジションを逆手にとって、投手対打者バトルに回帰

グラゼニ

 グラゼニうまいな−。コマ割がリーダビリティ高すぎて何回でも読めるな−。そしていつのまにか凡田がかわいく見えてくる!ふしぎ! 『こんなこいるかな』系のかわいさ!

 ところで、『BRUTUS』特集号「マンガが好きで好きでたまらない」で解説されていた宇野常寛の『グラゼニ』評はどうなんだろう。
“現代の26歳は自分で人生設計をしなければならないんです。(略)この作品は、そういった今時のサラリーマン指向に響く要素が満載。”“こうした「スポーツマンガの皮を被った人生設計マンガ」の側面を持つ作品が支持されるのは、非常に時代を反映していると思います。”

 いやいや、皮は被ってないって。スポーツマンガだから。

 まあ、言ってることは正しい。そして、『グラゼニ』は一見正統なスポーツマンガではないように見える。なんせこの作品では試合はいつも断片的にしか描かれない。第5話で、凡田は“防御率3.38”という状況を、引退した先輩の徳永に叱咤される。2.84まで下げろと言われ、プレッシャーを感じる凡田。しかし、しばらくして調子よく投げられる日が来て、その試合11回までに凡田は防御率を2.84まで引き下げることに成功する。12回延長を見越して「今日はイケるよ 防御率の稼ぎ時」……と考えていたところ、仲の良い後輩が逆転ホームランを打って試合が終了。凡田は後輩の好調を本気で喜びながら、一方でもっと防御率が下げられたのにと思う。凡田にとって優勝やチームの勝利は必ずしも自分にとってもっとも切実な問題じゃない……つまり彼がチームを左右するようなスターではないことを感じさせる。だから、一見すると野球をマンガで読む快感を描くことを放棄しているように見えちゃう。

 でも、このマンガの面白さって、久々に野球マンガに“打者と投手の一対一だけを読むおもしろさ”を持ち込んでるところにもあると思うんだ。

 実は私、スポーツマンガはわりと避けて読んでるほうだ。理由は長いから。

 『巨人の星』の前に読んでた野球マンガが『おおきく振りかぶって』だったんだけど、『おお振り』も結局試合シーンが長くていつのまにか単行本を買わなくなってしまった。あの丁寧な試合展開がいいというのはよく知ってるけど、野球にあんま興味ないとさかのぼって読み返さなくちゃいけないのがちょっと辛い。自慢にならんけど。

 さて、そんな中でほぼ凡田と打者の一対一だけを読ませるというイレギュラーな試合展開を楽しませてくれる『グラゼニ』は、けっこうありがたい。しかも凡田は2流の投手ということになっているので、力や魔球では絶対に勝てない。力で押せない分は頭を使わざるを得ないので自然と地味な戦略による一対一になる。さらに、高校野球と違って負けたら終わりではないから、物語上「凡田を負かしてもかまわない」。逆説的に、勝ち負けの予想がつかなくて緊張感が生まれる。

 野球の試合をあまり見ないので、あくまで『グラゼニ』世界での比較になるが、中継ぎが試合の行方を左右する局面は、先発やストッパーに比べるときっと少ないだろう。当然、本来であれば盛り上げの難しい役柄だ。だけど、年収のために成果をあげようとする凡田の目線を生かし、一対一の面白さに広げていく。森高夕次の計算に翻弄されているようで、ちょっとくやしいくらいだ。

試合全体を楽しむというより、勝負の場面だけ切り取った観戦記を見ているのに近いのかもしれない。私はそれなりの回数読み返しているけど、いまだに凡田の同僚の名前を、渋谷、雪雄、瀬川、トーマスくらいしか覚えてないし。

 あと、なんだかんだで野球選手を尊敬させるように演出しているのも、いろんな意味でうまい。

 ところでほとんど指摘されないアダチケイジの作画も大きな成功要因だと思っていて、それはコージィ城倉の絵はだいたいどこかいかがわしい雰囲気が漂っているからだ。同時に連載されているコージィ自身の作画の『おれはキャプテン』では、登場人物はみな裏表があるように見える。一方で、プロというもっと裏表が感じられてしかるべき『グラゼニ』では、あまりうさんくさいキャラは出てこない。プロ野球を舞台に、年俸という生臭い切り口からはじまった『グラゼニ』が、のほほんとした雰囲気を保っているのは、あきらかにアダチケイジの手柄だろう。

 ところで、第3話までは凡田のことを、アダチ自身がいまいち捉えきれてないのが目に見えるのだけど、第4話で「おれは今日……友だちに“勝ち星”をつける……!そのためだけに投げるんだ……!」という話をやったあとに、見てるこっちがほっこりするようないい表情が描けるようになっているあたりも体温が感じられて好きだ。
<追加で記事書いた>
『グラゼニ』仕事の成果や結果は、どうしようもなくその人の人格にひもづいているという真理


第1話「僕の職場」の最後のコマ
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第4話「ともだち」の最後のコマ

グラゼニ (1)

グラゼニ (1)

グラゼニ(2) (モーニング KC)

グラゼニ(2) (モーニング KC)

グラゼニ(3) (モーニング KC)

グラゼニ(3) (モーニング KC)

グラゼニ(4) (モーニング KC)

グラゼニ(4) (モーニング KC)

BRUTUS (ブルータス) 2012年 3/1号 [雑誌]

BRUTUS (ブルータス) 2012年 3/1号 [雑誌]