閉店二日前にNET21恭文堂コミッククラフト店にお邪魔しました。コミッククラフトは20年以上続いた、学芸大学駅近くのマンガ専門店。閉店後も恭文堂本店でマンガの販売は続きますが、店長のHさんは本店でマンガ以外を担当されるそうです。
H店長とは以前仕事でお世話になり、私が出版業界から離れたここ数年は地下アイドルの話などをする仲でした。
学芸大学駅は今でも商店街が残っているにぎわいのある街なのですが、H店長自らがツイートしているように、不景気や人口減はもちろん、ネット通販の発達や読み手が電子へとシフトしたことなども大きかったそうです。
以前北海道で書店員をやっていたNさんと一緒にお店にお邪魔し、お店を見回しながらいろいろお話しました。
コミッククラフトは売れる本を売るだけでなく、作家の旧作や文脈の近い作品などを丁寧にそろえることで、マンガという文化の幅広さや多様性を店舗を通して示していました。なくなってしまうのは、地域の人がマンガ文化の豊饒さを知る機会がなくなることでもあります。
途中で50歳前後と思われる男性のお客さんが笑顔でアックスを取りに来て、H店長に「残念です。いやあ、本当に残念です」と伝えてレジに向かっていきました。湿っぽくならないように、でも、お店がなくなるのが悲しいというのを伝えよう配慮すると、笑顔になるのでしょう。短い言葉に、語り切れない感情が山ほどあるのがにじんでいて、どこか信じ切れていなかった同店の閉店をやっと実感しました。
H店長は「さっきのお客さんは双子でねえ。前に取り置きを渡そうとしたら、『それはもう一人のぼくですね』と言われたことがあるんだよ。見分けがつくようになったんだけどねえ」と話していました。双子の兄弟でも、マンガの趣味は違うのだそうです。