ホンのつまみぐい

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「医者でラッパーは人生を賭けたボケなんです」―天然ボケになれない努力家MAKI DA SHITが語る音楽をあきらめない生き方

第一印象、デカい。第二印象、司会が達者。第三印象、ライブがうまい。しかも大学生のうちからアルバムを出している。その上医大生。「なんだ、そのスペック」というのが、大学生ラップ選手権で、主催者兼司会として登場したMAKI DA SHITへの第一印象だった。

 

ただでさえ忙しい医大生という立場なのに、活動の手をゆるめない姿勢。はたから見ればずいぶんハイスペック。でも、実際に会うと腰が低くて、「えへへっ」という笑い方が人懐っこい。

 

青森から上京し、医学部で学びながら音楽活動を続けるという、多忙を極める生活を送る彼に、日本語ラップへの思い・上京した人間としての葛藤・今後の展望などを聞いてみた。


RHYMESTERの「ONCE AGAIN」で号泣した浪人時代

ーラップをはじめるきっかけを教えてください。

もともと人前で何かをするのは好きで、ラップ自体もずっと聴いてたりしたんですけど、本格的にラップを始めようと思ったのは大学浪人の頃ですね。

ぼくは2浪していて、1年目は青森の自宅、2年目から上京して渋谷の予備校に通ってたんです。田舎からいきなり渋谷に出てきたのと、ぼくが誘惑にとことん弱いのとで「いったん東京の遊びを覚えたら絶対に医者になれない」と思って。必ず予備校に1番近いモヤイ像の方からしか降りないっていうルールを決めて、ハチ公口には近づかずに、電車移動中も勉強していたんですよ。初の東京での一人暮らしなのに……。

その浪人中、あまりにもしんどくて気持ちが落ちていた時にRHYMESTERの「マニフェスト」を聴きまして。その中の「ONCE AGAIN」って曲の歌詞が死ぬほど刺さって、自習室で静かに号泣するっていう。 当時は勉強に加え慣れない東京の生活のせいもあって心がだいぶ弱ってたのでRHYMESTERの数々の楽曲から力をもらい勉強、勉強、でたまに自習室で泣くっていう、気持ちの悪い浪人時代を送ってました。あと、握手会とかライブとかは一切行ってないんですが、AKBグループにも癒されてました(笑)

その時期に「関東の医学部に合格したら、医者を目指しつつ絶対ラップをやろう!」と思って。当時は「ラップに合格させてもらった」くらいの気持ちがありました。

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ーそんなMAKI DA SHITくんは、2016年にすでにCDをリリースしていますが、アルバム制作や曲作りはどうやって始めたんですか?

最初は勝手がわからなかったし、知り合いもいなくて。2011年頃は今ほどサイファーも盛んじゃなかったんです。そんな中、町田でMCバトルがあるというのを聞いて、大学2年生の頃にエントリーしたんですよ。案の定負けたんですけど、そこでVANILLAくんというラッパーを知りました。あとでTwitterで彼のことを調べたら、RHYMESTER結成のきっかけになった音楽サークルの早稲田GALAXYに所属していて、SKY-HIさんやサイプレス上野さんとも普通に絡んだりしている。しかも見た目もラップ内容も「あまり怖くなさそう!!!」って印象で。「これは仲良くすべきじゃないか」と思って、「弟子にしてください」みたいな変な絡み方をしたんです。

ーほんとに弟子にしてって言ったの?

DMで言いました。めっちゃ引かれましたけど。当時VANILLAはBUZZBOXってクルーを組んでいて、GALAXYの看板クルーだったんです。「ぼくもラップやりたいです!」とかいう感じで仲良くなって、彼らが主催したBBQにちょっとエエ肉を持ってすり寄っていったりして。へへへ。

VANILLAには曲の録り方やスタジオの使い方など、活動の基盤を教えてもらいました。後にぼくと彼でバイオレンスチワワというクルーを組むんですが、それは結局オリジナル楽曲を出すに至らず。現在は謎の休止状態っていう……。

 

MAKI DA SHIT(バイオレンスチワワ) | Free Listening on SoundCloud

レコーディングの仕方を2013年くらいに覚えて、2014、2015年にバトルに出まくって、ライブのオファーをいただいたら、毎回少しずつ違う凝ったものを出して。名前が知れてきたタイミングでアルバムを出しました。

ーアルバムはどのくらいの時間をかけて作りましたか?

コンセプトアルバムというよりは、第一弾音源集といった感じで、2013年後半から2015年頭までに録ったものが中心なんですが、色んな人に出会ったりトラックを購入したりしながらその時々に感じたことをラップしています。

表紙だけは山形でグラフティを描かれているSOLIDさんという方にお願いしたんですが、それ以外は歌詞やブックレットもお試し版のAdobeyoutube見ながら操作して、なんとか一人で制作しました。荒削りな部分も多いと思うんですが、協力してくださった方の力もあって、手売りのわりにはそこそこ売れてるみたいでうれしいです。

ーMAKIくんはライブがうまいから、ライブを見て買ってくれる人も多いよね。

ありがとうございます。ぼく、今まで人生を注ぎ込んできたものが「お笑い・ダンス・ラップ」でして。ダンスは中学校から大学3年くらいまで、ポップダンスやロックダンスと言われるものをやってました。舞台での魅せ方や構成はそこで磨かれた部分が大きいと思います。

あとは、お笑いや落語に影響を受けてからしゃべりを研究していた時期があったので、常に面白い見せ方というのは考えてますね。

小学生の後半にお笑いにハマって、ケーブルテレビのマニアックな吉本のチャンネルを食い入るように見たり、NHKでやってたオンエアバトルをネタ毎にノートに記録してたりしました。

その前までは口げんかで相手を泣かせるのが唯一の喜びみたいな超絶嫌なガキだったんですけど。これはよくないと思って、漫才やバラエティー番組からトークを勉強しはじめたんです。小5から中2くらいまでは気に入った漫才を暗記して、それを暗唱したり、友達に聴かせながら登下校していました。漫才の暗唱って気持ち悪いですよね。でも、そういうことをしていたおかげで、中学から面白キャラが定着して。

あと、もともと人前に出たいって気持ちはあったんですけど、それと同時にいつからか「わかっててバカやる人」にすごく憧れていたんです。本当はむちゃくちゃ頭いいのに全力でバカやってるビートたけしさんとか。ぼくの「医者をやりながらラッパー」っていうのも、ある意味で人生を賭けたボケというか。「一旦、医者になる」っていう贅沢すぎるフリのあとに面白いことしてたら、フツーにボケるよりずっと面白いかなぁって。一生ツッコまれる側でいたいです。

アルバム内の「NO FUTURE」って曲でも書いたんですけど、今って何かあれば人の揚げ足をとって炎上させるみたいなトゲトゲした空気感があるじゃないですか。マキタスポーツさんの「一億総ツッコミ時代 (星海社新書)」って本にぼくの言いたい事が丸々書いてあるんですけど、やはり精神衛生的にも、こんなご時世はあれこれ目くじら立ててツッコミ続けるより、ボケに徹する方が絶対楽しいなって。

―個人的に気に入ってる曲はありますか?

あっこゴリラ、KZさんに参加してもらった「巡り合わせ」は評判がいいですね。これは最初に、ぼくのリリックと曲名を渡した上で「それぞれが思う人とのつながりについて書いてほしい」という漠然としたお願いをして録ってもらいました。

あっこゴリラからバースをもらった時は、彼女がゴリララップを一切せずに、普通にテクニカルなラップをかましてくれたことに衝撃を受けました「え、フツーに超うめえぇ」ってのと、ナチュラルな普段の自分を出してくれたのがうれしかったですね。

KZさんは梅田サイファーのベテランMCで、梅田の歩道橋周りから見える人間模様と、そこで自分が培ってきたことをなんかを書いて下さって。実はあまりお話したこと無い状態でオファーしたのですが、快く受けてくださって感謝しています。

歌詞から見えてくる場面はそれぞれ違うのに、1曲で聴くと、どこかまとまって聞こえるのがまさに巡り合わせという気がしますし、何よりDJ HAYAMAくんのビートがとてもいい温度感で。彼は同じ青森出身という縁もあって誘わせて頂きました。あとは「クソな世界で踊ろうぜ」ですかね。

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-ライブで盛りあがりそうですね。あとは冒頭のオオイエくんのシャウトがめちゃくちゃ面白い。

クソな世界で踊ろうぜ by MAKI DA SHIT(バイオレンスチワワ) | Free Listening on SoundCloud
この曲は旧風営法でクラブ経営の風当たりが強くなったタイミングで書いた曲です。当時こういうテイストの曲は多かったんですが、ダンサーだった経歴も踏まえて歌詞を書いたので、反風営法的なメッセージに加えてB-BOY賛歌的なニュアンスも盛り込まれてます。

あとは、サラリーマンが酔っ払って週末にちょっと無茶して騒いでるみたいなイメージを入れ込みたくて、オオイエくんのシャウトを入れています。

彼のラップはヘタウマな感じが魅力なんですけど、最初スタジオに連れてったら、緊張のせいかとんでもなく大根役者で。お酒呑むといい感じになるのを知っていたので、仕方なくストロング缶2本飲ませたらすごくいい感じで録れました。

あと、フックの「クソな世界で踊ろうぜ」は最初に浮かんだフレーズなんですが、コール&レスポンスすると楽しいかなと思って。そこはちょっと狙いました。


ー私が個人的に好きなのは北の地下サイドですね。

これは地元や隣県の人に協力を仰いで作った作品ですね。HI-SOさんは隣の中学出身のモロ地元の先輩で、かのKREVAさんの公式REMIXなんかも手掛けたことがあるベテランの先輩ラッパーです。R.O.Gは隣県・秋田を牽引する若手で、バトルで知り合いました。

医大生キャラは正直無理があると思ってる
ーあっこゴリラ、MC松島、呼煙魔、BEAT手裏剣(BATTLE手裏剣)と、参加者の幅がすごく広いけれど、これもバトルで作った人脈なんですか?

割とバトル繋がりも多いですね。バトルで当たったことがきっかけの人もいれば、現場で話しかけて仲良くなった人もいます。

ーけっこうぐいぐい攻めるタイプなんだね。

本当はシャイです。でもやらなきゃと思ったら意外といけるみたいな。えへへ。特にあっこ(ゴリラ)は絶対売れると思ったので、彼女がバトル界隈に出入りしているうちに曲作っておこうと思って(笑)

バトルに関して言えば、昔は仕込んだ韻だけで勝ったりしていたんですけど、それじゃ楽しくないし代わり映えしないじゃないですか。ストリートでの武勇伝もないし。そういう中で、ぼくの武器ってなんだろうって思ったときに、医大生という部分かなって。

 

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ーうーん、でも医大生って正直そんなに特色が出ないような気がするんだけど。そもそも学部でキャラつけってのがちょっと無理があるというか。

……そうなんですよ。これは正直言って、まだまだMCバトルとかちょっとしたイベントで成立する小手先のキャラだと思ってて……。まだ大して経験も無いし、医療に対する専門性もないですし。「頭がいい」「将来が安泰」くらいのイメージなのかなぁ。

 

でも、これから医師としての経験をどんどん積んでいって、それを、ぼくが作ってきたラッパーとしての鋳型に注いで、ちょっとずつ形を変えていければ、いつかは面白いことになるんじゃないかなとは思ってて。

ただ一つ問題なのが、見た目もデカいし、医大生っていうのでちょっとお堅いと思われてるのか、ヒップホップの現場ではあまりキャラが発揮できてないんですよね。大学との兼ね合いもあって、イベント出没率も高くはないので仕方ないんですが、ラッパーですごい仲良いってやつもそこまで多くはないし、ちょっと寂しい思いもしてるんです。本当は中・高・大と学校では身体張ってバカなことやるようなタイプだったので、全然みんなにイジってほしいんですけどね。

ー制作において影響を受けたアーティストはいますか?

制作というよりは、キャラや振る舞いも含めたラッパーとしての立ち位置的なものなら、RHYMESTER宇多丸さんとサイプレス上野さんですね。めっちゃ理想を言えば宇多さんとサ上さんを1:2に内分したくらいのポジションにいけたらいいなと……。

ぼくは一時期ヒップホップを聴いていく中で、ルーツを知れば知るほど、共感できないというか、「自分が聴くような音楽じゃないのかな」とか思うようになった時期があって。自分はド田舎ではあったものの、メチャクチャ恵まれた環境で生活してきたし。それこそ差別の類なんて経験してないし。


そんな中で自分に特に刺さったのがやはり宇多丸さんで。宇多丸さんの膨大な知識量とそれに基づく説得力やユーモアで自身の経験や価値観をラップしていく感じに凄く惹かれました。ラジオ番組なんかも通して、オタクであることの強さや面白さを習ったのも宇多丸さんです。もしかしたら、医師の息子という共通点にもシンパシーを感じていたのかもしれません。

田舎だったからかもしれませんが、ぼくが小中学生の2000年前後って、まだ今ほどオタクが市民権を得ていなかった気がして。ぼくの周りでもアニメ好きやアイドル好きもいましたが、ちょっとコソコソ日陰でそういう面を発揮してたというか。ぼくもモーニング娘。が小学生の頃好きだったんですが、番組録画するときはVHSの見出しには「コナン」って描いてましたから(笑)


でも、ゼロ年代後半になって随分世の中変わったじゃないですか。インターネットの普及とかが直接的なきっかけかと思うんですけど、フツーにそういう人が面白いみたいにとられてきて、テレビで濃いオタクにしゃべらせて面白がる番組が出てきて。今は濃淡こそあれど、もはや1億総オタク時代だなと。


ぼくは、そのオタクが社会で市民権を勝ち取る過程を、勝手に黒人がヒップホップを使って市民権を得た姿に重ねてしまって。「ある意味これってヒップホップ的じゃないか!」と。そんな謎の自論も相まって宇多丸さんは未だ1番の憧れの人です。

あとは、アーティストとしてのふるまい的な面でいうとサ上さんです。ラジオも書籍も面白いし、ヒップホップ全開の時もあればアイドルと仕事もしたりと、全方位的に活動できるのがすごくカッコいいなって。

でも、純粋に一番うらやましいのはあの人気者オーラですね。あのマンガ的なビジュアルとか、「よっしゃっしゃす」とか、自分で作った言葉を定着させちゃう感じとか、すごくうらやましいなって。あれはやはりマンガの主人公になる人のオーラですよね。自分のキャラをうまく外に出していくためのヒントがサ上さんにあるような気がします。

 

天然には絶対なれないけれど
ー2016年に主催した大学生オンリーのMCバトル・第1回大学生ラップ選手権は、どういう経緯ではじまったんですか?

実は、ぼくアルバムのプロモーションにかまけて留年してしまってですね……。5年から6年にあがるタイミングで自分だけ5年間一緒にやってきた友達と別れてしまうという状態になったんです。しかも、友達と別れただけでなく、5年間一緒にやってきた、かなり人間関係が出来あがってる集団の中に落ちるワケですよ。こんなデカいラップやってるわけわかんない元先輩が。

で、学生をおかわりしちゃったんで、せっかくだから学生というテーマで何かやるかと思って。そこでゆうまーるBPというフリースタイル練習会を主催していて、大学生ラッパーとの交流も深いゆうまくん、ジャンルレスなイベントを年に何本も打っている胎動レーベル主催のikomaさんと一緒にやることになりました。

ただ、第1回のイベントの出来としては自己採点で60点くらいかなと。バトルもライブも盛り上がったし、お金を払って観ていただくイベントとしては成立したと思うので、そこで60点。でも、正直22歳以下限定のバトルイベントあまりと差別化できていない部分もあって。もう少し「大学生」の部分を活かした大会に出来なかったのかなとは思います。

ー準備期間はどのくらいでしたか?

3人ですべてを行っていたので、けっこう急ピッチで作りました。5月の後半に主催の3人が揃ったので、9月19日の本選に向けて3ヶ月強で準備をするという状況だったのでしんどかったですね。

各MCに連絡して、30秒くらいのMCごとの紹介動画を撮影して。ぼくは動画を撮りに大阪まで行ったり。終わった後は1週間くらい達成感にひたってたんですが、今思うとわりとメンツが大学生かつ豪華ってだけの普通のバトルイベントだったなと。

ーでも、あのイベントがきっかけで初めてマイクを握った人もいると思うし、貴重な場だったと思いますよ。

 

そうですね。だから次にやるならテコ入れして、逆にもっと気軽に参加できるようなものにしたいと思います。でも、ぼくが大学生じゃなくなったら開催するにあたっての説得力がなくなってしまうので、誰か後継者がいたらとも思うんですがね。医師になったらなったで、ストレス溜まってる研修医を集めてイベントなんてしてやろうかとか考えてます(笑)

※インタビュー時は未定だったが、その後2017年8月29日に第2回大学生ラップ選手権が開催

サイファーで言いたいことを言うという行為自体に、ストレス解消できる部分があるものね。

……。でも、ぼくは生活サイクルの兼ね合いとかもあってあまりサイファーには行ってないんですよ……。さっきも話しましたが、よく遊んだりするラッパーもそんなにいなくて。本来のキャラが浸透して、イジられたりするにはどーすればいいんですかね……。

ーうーん。それはアホな人と組んだ方が早いんじゃないかなあ。

あー。

ーアホというか、天然な人というか。

なるほど……。確かに天然な人って貴重ですよね。ちょっと話変わるんですけど、twitterで読んだ話で、ぼくがすごく感銘を受けたんですけど、「昔のYOU THE ROCK☆とか、今だとゆるふわギャングとか、ある種天然な人が時代を作る」っていう。

ぼく、ゆるふわギャングの渋谷WWWでのワンマンで大号泣したんです。

ぼくの実家は家系図10代くらいさかのぼれる古い家で、長いことずっと医師という。しかもぼくは長男だったから、ある程度の年齢まで医者になる以外のビジョンを思い浮かべたことがなくて。まぁラッパーや芸人への漠然とした憧れはあったのですが。でも、東京に出てきてライブやバトルでお客さんに面白がってもらったりするうちに、その薄れていた気持ちがまた出てきて。

 

とはいえ、親に教育資金をかけてもらってたり、実家が長く続いてる開業医である手前、通さなきゃならない筋もあるとは思って。色んなバランスを保つためにも、医者という立場を上手く使えないかなーと思い始めて。

よくラッパーの方に「医者って保険があっていいよな〜」的なことも言われるんですけど、ぼくの中で医者ラッパーというのは、時間さえ確保できれば「好きな音楽をあきらめなくてもいいシステム」だし、「むしろ医者をやりながらマイク持つ方が社会的にもリスキーだし、医学部の同期たちよりは絶対稼げない分の銭を投げうってる自覚もあるので、これはコレで大変なんだぞ!」とも思っていたのですが、先述のゆるふわギャングを見てしまったら、そういう自分の感覚がすべてぶっ飛ばされてしまって……。なんかシド・アンド・ナンシーじゃないですけど、刹那的な生き様の輝きが作品に刻まれてる感じって、ぼくには天地がひっくり返っても出せないなって。

もちろん、ぼくは宇多丸さんリスペクトですし、そんな方向性とは真逆の生き方を肯定するラッパーでありたいんですけど、ぼくが今まで自分の人生を肯定するために武装した理論達が、彼らのライブを見た瞬間にガラクタに思えてきて……。「すげえな~カッコいいなぁ~」と。超泣きましたね。

実際、そういう天然かつ最強な人の前に立つとぼくの医者キャラなんて本当にハリボテみたいなものだと思うんです。でも、その中でもぼくがこれから医師として経験していくことや、このベラベラしゃべる感じとかは自分自身の中にあるものなので、そういう部分はアーティストとして形にしていきたいとは思ってます。
 

夢や欲が枯れるまでは、東京でがんばりたい
ーインタビューの前にラジオ東京ポッド許可局の上京論を聴いてくれって言ってましたね。あれにマキタスポーツさんによる「山梨時代の自分と東京時代の自分は違う人間」という話がありますが、ああいう「田舎での自分」と「上京した自分」が違う人間という意識はあるんですか?

そうですね……。東京の自分と田舎の自分はまったく違うと思ってます。続き物のシーズン1、シーズン2とかっていうより、二重人格的というか、1人の中で完全にスイッチが切り替わるというか。

このラジオの論の中でも言ってるのですが、上京しない人・田舎で生涯を過ごす人って、元々クラスの中心的な人物だったりすることが多くて、田舎に働き口があって、奥さんと子供もいて。土日は息子とジャスコイオンモールに行ったり、小中高時代の仲間、いわゆるダチと呑んだりみたいな、本人の充実度も含めた生活全般が地方のコミュニティで完結している人たちなんです。

 

一方、上京する人は、田舎では割と変わりもん扱いされてたり、自己が理解・肯定されない境遇に鬱憤を溜めていたりして、「俺の居場所はここじゃねえ」みたいなことを自分自身に言い聞かせてたりするんです。

ただ、ぼくは地元での人間関係は比較的恵まれていたので、嫌な思い出も大してなければ「こんな町二度と帰らねえ」みたいな気持ちもなく、むしろ青森に行くと居心地が良すぎて「ここで一生ダラダラ過ごすのも悪くないかなー」なんて気持ちになってしまうんですよ。 その、ぬるま湯感が嫌で東京に出てきた部分もあるのに。地元にいた頃って何の夢も見られなかったから。

だから、上京してから1週間以上向こうに滞在したことないんですよ。青森に戻ってしばらくいると、地面に養分を吸い取られて花が枯れていくような感覚というか、すごい速度で野心がこうクシャクシャってなってしまうことがあって……。もちろん家族もいて居心地がいいからなんですけど、青森駅から東京駅に降りて東京の空気を吸った瞬間にカチッとスイッチが入るというか、楽屋から舞台に立ったような気がしますね。

 

田舎ってやっぱりどこかあきらめのムードがあるんですよね。何かあるごとに「おめえ、青森なんだからそんな夢みてぇなこと言ってんな」みたいな。だから、色んな夢や欲が枯れるまではこっちで二足のわらじで頑張ろうと思います。それで、いつか地元の家族や友達にいい報告が出来ればなって。

ぼくの目指している科は、バランス次第では好きなことに時間を捻出することもできそうなので、仕事やお金の面では「音楽をやめなくてもいい生き方」を選んだと思っています。でも、それは一方で「やめたらダサい」ということでもあると思うんですよね。それこそ、医師であることが保険だったって事になっちゃいますし。好きなことをあきらめないバカな姿を世にしっかり提示していけたらと思います。

 

MAKI DA SHITくんは現在医学部最後の学年を迎え国家試験勉強中。医大生ラッパーから研修医ラッパー、そして医者ラッパーへの道を現在進行形で歩んでいる彼の今後に今後とも注目したいところ。

MAKI DA SHIT - ネイキッドキメラ (CD)

【特典アリ】MAKI DA SHIT - ネイキッドキメラ (CD) | Tokyo Togari Nezumi

※CD現在品切れステータスですが、近日中に在庫復活予定とのこと。

https://www.tunecore.co.jp/artist/m-709

追記:医大生ラッパーから、無事に医者ラッパーになったmaki da shitくんの新譜が発売されました。上記のリンクからどうぞ。

D.I.P vol.1 at.中目黒solfa/新生校庭カメラギャルお披露目ライブに行ってきました

パタコアンドパタコの卒業ライブを行った中目黒solfaに新生校庭カメラギャルが帰還。らみたたらったちゃんときゃちまいはーちゃんの二人体制。

 

hontuma4262.hatenablog.com

 

こうていかめらがーるどらい(OA)

 

なぜかリゲインのテーマを出囃子に登場するコウテカ3。

服装は衣装ではなく、サングラスにTシャツ仕様。

 

ほぼアゲ曲の日本お披露目と違い、「Hampty Taxi」「Lough Ma Fleur」などバラード調の曲も披露。

 

らみたたらったちゃんがもるももるちゃんのパートを歌った時になぜかちょっと感慨深くなりました。ただ、バラードが続くと、各MCの歌い方のクセが単調に見えちゃって、一曲一曲の解釈の甘さが見えちゃうかなと。まあ、そういうのは場数踏むうちに変わっていくでしょう。

 

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963

ぴーぴるの隣になんだか不安そうな顔の女の子。あーぐる13歳。
また辞めたのかい。何人目だ。と思ったら、「まーろるは辞めてなくて、これからはあーぐるとまーろるの中学生ふたりが交代でステージに立つようになる」とか。
そういうの、それなら事前に運営が言えばいいのに、ぴーぴるに舞台の上で言い訳させちゃうのよくないよなあというのが気になって集中出来ませんでした……。曲やコンセプトはいいんだけどね、963。

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g.a.g

活動休止中のNATURE DANGER GANGの關、ぼく脳、プラズマがやってる好き勝手にラップするユニット。中学生が友達に聴かせるために作ったバカなラジオをいい大人が真剣にやってるというか。でも、原初のヒップホップって感じがして、これはこれでよかったです。BADHOPっぽいいまどき風のトラップビートもあったけど、明るくてバカっぽくてちょいエモな曲の方が似合う。

 

安達祐実の母のよう!
ただ自由に羽ばたこう!
フリーダム!フリーダム!

 

とか、ちょいちょい耳に残るとこありました。NDG同様サビが強い。「生きてる」や「オレたち!」を思い出させてくれます。


春ねむり

アイドルオタク多めの現場ということで、事前にオタクにMIXを要求していた春ねむりさん。「いのちになって」でMIXが入ったのを見て笑顔に。 「はろー@にゅーわーるど」の「好き好き好き」で「オレもー!」が入ったのもよかった。ワンマンの時は美しいという形容が似合う感じでしたが、この日は可愛かった。


一方、「ロックルロールは死なない」では「私校庭カメラギャル大好きなんですよ。最高にあっためてから迎えたいんですよ!」って煽る姿はかっこよく。

3か月連続自主企画の第1弾は中目黒solfaで、ウテギャのほかに下記メンツを加えて行うとか。初めてアイドルイベントに招いてくれたのがウテギャだったから、今度は招き返すそう。仁義だなー。

 

 

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はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

 


校庭カメラギャル


LUNA SEAのROSIERが出囃子代わりにかかり、なぜかオタクを蹴る動作をしながらフロアをうろつく二人からのスタート。

ウテギャの歌詞の中には本人たちのエピソードを組み込んだものが多いのだけど、今回披露したのは属人性の低い、ほぼ歌詞を変えなくていい曲

きゃちまいはーちゃん、リズム感はぱたこよりずっといいけど、まだこなすだけで精一杯という感じかな。ただ、アンコールのゴー!ギャルでは緊張が解けたのか、スカッとしたラップしてましたが。

マイクに噛みついてくるようなぱたこのラップとはまた違う、新しい歌を見せてくれることを期待します。


たらちゃんはかなり気合いが入っていて、これでやっていくぞ!という強い意思を感じました。新しい曲が入ってきて、二人のウテギャが生まれるまでゆっくり待ちたいです。

 

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スマイル・アゲイン

スマイル・アゲイン

 

 

完全に余談ですが、コウテカ3お披露目に続き、反省会が濃かったです……。

校庭カメラガールドライ prologue oneman live “through the wire” コウテカ3お披露目ライブに行ってきました@下北沢Three

校庭カメラガールドライのお披露目ワンマンは9月6日から告知されてたけど、お披露目っていってもまだまだ仕上がってないだろうし、11月はイベント多いしお財布のためにも遠慮しておこうかなと思ってた。

 

ところが、10月2日にはメンバー編成が変更になり、らみたたらったちゃんがメンバーとして加わるというアナウンス。

 

「たらちゃんのお披露目なら……」という気持ちで下北沢Threeへ。

 

途中、道端で前呑みしている久々に会うオタクの人たちとあいさつ。一人で出向くヒップホップ現場が続いていたから、あいさつできる現場楽しい……。

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雑談しながら会場へ行くと、ステージ正面のフロアはかなり小さめ。ラウンジとステージは胸の高さくらいの壁で仕切られていて、フロアに入らなくてもステージは見えるという仕様。しかし、この日は狭いフロアがぎゅうぎゅうで、なんだかフロアの人が隔離されているみたいに見えた。

ラウンジで遠目に見ていると、ヒとミさんに「コウテカって暴れるんですよね」と言われたので、「いやー、そうでもないですよ。人それぞれみたいな」と返事。

しかし、結果的にこの返事は嘘ということに。

会場が暗くなり、オーバーチュアとともにステージに現れるメンバー。

すると、真っ暗で無音のステージからアカペラで歌声が聴こえる。

冷蔵庫の中 昨日食べちゃったから
マグカップの中 今飲み干したから
化粧ポーチの中 歳を重ねたから
フォーエバーなんてさ 意味ない


あー、Wedge Sole Eskimoのオープニングだ。懐かしい。
でも、今までで一番歌としてうまい……!
「えっ、何だこれ」と思っていると、トラックが流れ出して改めてWSEがスタート。

Wedge Sole Eskimoはオタクが掛け声を入れたり、落ちサビで振りを揃えたりする場面があるから、身体が勝手に動いてしまう。つい「これこれ!」という気持ちが湧き上がる。

そして、驚くべきことに3人とも仕上がってる。

校庭カメラギャルで鍛えたたらちゃんはもるももるちゃんバース中心。歌もラップも行けるきゃちまいはーちゃんはうぉーうぉーとぅーみーちゃんバース中心。演劇的な節回しの動作とラップのさっぴー はろうぃんちゃんはののるるれめる・しゅがしゅらら中心の歌割り。もちろん、そのままスライドしたわけではないけれど。

 

セトリはアゲ曲中心で、ガンガン跳んだり跳ねたりしちゃうやつ。いや、跳ねますよね。これ。違和感はもちろんあるんだけど、やっぱり好きだからね。そして、代わりのない音だから。しかし、フロアぐちゃぐちゃでリフト上がり放題。直前にヒとミさんに言ったことを訂正せざるを得ない。


ライブ中盤になって流れるLast Glasgowのイントロ。エモーショナルに振り切ったこの曲は、おそらくましゅりどますてぃ卒業ソングとして作られてる。

モリーズラスター
ここで歌ったこと覚えてるよ
未来が明るくても
モリーズラスト スタート
ここで歌ったこと覚えててね
私がいなくなっても

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ああ、このイントロは何回聴いても2015年の冬を思い出してしまうな。しゅりちゃんに秋葉原タワレコのリリイベでガチ恋して、ホームページに載っていた歌詞を全部印刷して持ち歩き、忘年会をサボって卒業ライブに駆けつけた冬だ。今思うと、あの頃の自分の衝動、まあまあ謎。でも、あれからコウテカが一番好きなラップミュージックだ。いろんなラップを聴くようになってからも、それは変わらない。

 

いろいろ思い出しつつ、すっかり暗記した歌詞を口に出しながら聴いていると、いきなり音止め。とはいえ、tapestokがライブ中に音を抜くのはそんなに珍しいことじゃないから、また演出かなと思い、歌い上げる3人の姿を感心しながら見ていた。

 

しかし、後で聞いたところによると、PA卓に人がぶつかってしまったというガチのハプニングだった模様。怯まず続けた3人エライ。

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感心しながら観ていると、いつの間にかしゅがーしゅららちゃんが観にきていて、盛り上がっていいものか一瞬戸惑う。ららちゃんはずっとまっすぐステージとフロアを観ていた。

 

ライブの〆はハルボシ。アッパーチューンが続いてからの、キラキラした音のお別れの歌。

これで最後だねと言った

僕らは祈りました

少しだけでも明日が変わるように

すぐにゆくよ

 

何となく整わないアンコールの声を聞きながら、周りを見渡すとののるるれめる推しのじむじむくんがちょっとさびしそうな顔をしていた。

 

じむじむくんと少し話して振り返ると、オタの人たちが花束を渡すための準備をしている。一人泣きそうな顔の女の子がいて、何となく推しがいないステージを観て気持ちが混乱しているのかなと思う。

 

泣き顔の彼女の代わりに、ライブを観に来ていた春ねむりさんが花束を渡すことになった。たらちゃんも二日前の春ねむりさんのワンマンに来ていたのだ。盟友!

 

アンコールに答えて現れた3人に花束が渡され、新曲からのLonely lonely Montrealで本当に終了。

 

あまり期待はしていなかったんだけど、曲の強さに引っ張られたところはあるけれど、正直楽しかった。最後の数曲はさすがに新メンバーふたりがスタミナ切れっぽかったけれど、それにしても想像以上だった。

 

でも、一方でののるるれめるちゃんの少し頼りない無邪気な声や、しゅがしゅららちゃんのひょうひょうとした萌え声こそが、私の知ってる校庭カメラガールだったんだなという実感もわいてきた。

 

それは、これから出会う人には一切関係のないことだし、むしろ新しいコウテカを作っていくであろうことをプラスに考えていいのだろうけど、ちょっと寂しさと物足りなさもあった。好きだったからなあ、すごく。

 

チェキを取ってオタクの人たちと雑談して、居酒屋でまた何時間もいろいろ話して、何だか久々にオタクやった感じのする日で、ちょこちょこドタバタしてたけど「やっぱたぺすとくだなー!」と思った。

 

ライターさんも何人かいらしてたし、パーフェクトミュージックとマネジメント契約したということで、これまで以上にたくさんの人に知ってもらえることを祈るのみ。

あめとかんむり、校庭カメラギャルもリリースやイベントが続くし、ここで興味を持った人はぜひあめかんやウテギャにも足を運んでほしい。

 

 

あと、これを機会にパンケチャが一掃されることもマジ祈ります……!!!!!!

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動画撮ってくれた方々ありがとうございました。

PV観て好き勝手言うエントリ

ツイッターでやるようなことをブログでぶつぶつと。

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届けるためにわかりやすくしていった結果、媚びているように見えてしまうことって多々あって、今のCreepy Nutsは危ういところにいるんじゃないか。私がそう感じるくらいの方がいいのかもしれないけれど。トラックがいつもより弱いけど、サンプリングの問題で本来のものが使えなかったということなら気の毒。

メジャーデビュー指南

メジャーデビュー指南

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追記:「だがそれでいい」のPV見て思ったけど、普遍性を獲得しようとして選んだ方法があるあるネタっていうのどうなんだ……。いや、たくさんの人に見てほしいっていうのは理解できるのだけど。とても広告代理店的な正しさで、物足りなくはあるんだよね。

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BADHOPの世界観は時に共感しづらいというか「不良の人はこういうことを考えてるのか」という聴き方をしてしまうのだけど、このPVの持つ普遍性には素直に感動してしまう。手書きの字幕、ロウなトラック、シンプルなリリック、そして、カエルみたいなけだるげな目のYEZRRとTiji Jojo。BADHOPはリリックで繰り返し友情を誇示するけど、この曲がもっとも仲間といる時間の愛おしさを共有できる。

これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo

これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo

  • BAD HOP
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

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MC松島ってTwitterやインタビューでの発言も含めて、常にとても教育的。彼に詳しい人がきちんと語ってくれないかな。北海道じゃなかったらどういう制作スタンスでいただろうということもたまに考える。

ヒップホップ警察

ヒップホップ警察

  • MC松島
  • ヒップホップ/ラップ
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呑み屋でフックだけ延々と歌いたい。ツアー行けないけど、物販の扇子ほしかった……。しかし、「future is born」PVの間に挟まる小芝居は謎。ライムスターはいまどき珍しくツアー内容のネタバレ禁止をはっきり明言しているみたいだし、客層に合わせた戦略を展開していくということなのかな?

梯子酒

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  • RHYMESTER
  • ヒップホップ/ラップ
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もるももるがmolm'o'molになって再始動。どうなることかと思ったけど、いい意味でやりたいこと・できることがうまく形になってる印象でとても好き。曲とリリックはもちろん、PV、もるちゃん本人の振る舞い、衣装など、すべてがしっとりとはまってる。八月ちゃんを迎えてのアルバムめっちゃ楽しみ。

nou

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そういえば、PUNPEEはPVもトレーラーも出していないんだよね。それで2017年日本語ラップ界トップクラスの枚数出すの、天才は違うな……。

MODERN TIMES

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シブカル祭。2017で春ねむりとあっこゴリラを観た@渋谷クラブクワトロ

シブカル祭はブッキングがおもしろくて個人的に「ちょっと行ってみたい現場」のひとつだったけど、いつもいつの間にか終わってた。しかし、今回は春ねむりが参加するということで、事前にTwitterで告知がガンガン流れてきて、無事当日現場に足を運ぶことが出来た。

 

場所はクワトロ。あの観にくいフロアか……と思いながら会場へ。

会場に入ると「美大生です!」「デザイン学校生です!」という女の子がぱらぱら歩いてる。渋谷のサブカルだもんな、そうだよな。

そんな若者を横目にフロアに入ると、MANONという女の子が歌っている。

茶髪ロングにふわっとしたパーマに、縦縞のワンピース。人からもらったものだとすぐわかる、へにょへにょした歌。うーん、アイドルじゃないけど、これはアイドルみたいなものだなあ。

ググって見たところ本業はモデルらしい。ブランディングの一つとしての音楽活動か。MCで「CDが出せてうれしい」「ポーチを作ってもらえてうれしい」と話しているのを見ながら、ちょっと憂鬱な気分に。何の芯もないまま、音楽を着飾っている姿の女の子を広告関係っぽい大人が「かわいいね」と言いながら鑑賞している。正直、気持ちよくない。女の子の方じゃなくて、周りの大人の「中身なんてどうでもいい。かわいくさせときゃいいんだろ」みたいな感じがね。しかも、この後は春ねむりとあっこゴリラなのに。

 

MANONが出て行くと、フロアにいたこじゃれた人々はすっといなくなって、ステージを見守るのは春ねむりファンの20~40代の男性がメインに。フロアにいっぱいいた、自分が何がしたいか、まだわかっていなさそうな若者に見てほしかったな。

春ねむりはトップスは白。袖とスカートは黒のワンピースで登場。

セカンドが出てからはリリイベでしか見ていなかったので、ちゃんとした箱で見るのは初めてだと気づく。

明らかにダンスミュージックではない、感情の底を叩くような低音。そして、高くて細いけれどしっかりした声で紡がれるラップ。春ねむりはいつも真摯だ。

「唯一のロキノン系ではないでしょうか」というMC。そう、この人の信仰の対象はロックンロールなんだよね。ラップだからってヒップホップじゃなくていい。

ライブの後半、「ロックンロールは死なない」で、こぶしを振り上げてフロアに降りてきた。基本的にどんな動作もそれなりにノってやれるんだけど、こぶしを振る動作だけはちょっと恥ずかしい。やるけどね。

全体が遠目に見回せるところで見ていたから、彼女の存在を誇るように見つめる人々の笑顔と、その笑顔に囲まれてぴょんぴょん飛び跳ねる春ねむりがまぶしかった。

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はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて

 

 

 

ロックンロールは死なない

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  • 春ねむり
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f:id:hontuma4262:20171031005126j:image

あっこゴリラはDJにダンサー二人を引き連れての登場。「こんなアッパーなやつ出てきてみんな大丈夫?」というMCからスタート。インストラクターみたいなヘソ出しルックと高くて通る声が気持ちいい。

千円札を模した物販のタオルを取り出し、「この千円札が~おっきくなっちゃった!」と笑いながら言う。つられてオタクの何人かが千円札を振っていたのもよかった。

黒人男性ダンサー二人を連れながらのライブはとにかくステージ上のボリュームが半端なく、見ているだけで明るい気持ちになる。ゴリラをコンセプトした彼女の初期の曲はあまり好きになれなかったのだけど、12月のEP用の新曲は音も歌詞も華やかで、耳を奪われる瞬間が多々ある。MVの華やかさに「女の子はラップすんなとかいう男どもはFxxk Youだ。」という歌詞の痛快さが気持ちいい「ウルトラジェンダー」はもちろん、新曲「ゲリラ」の「どしゃ降りもリズムに聞こえたの ゲリラ豪雨」という一節は彼女そのものという感じだった。

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二人を見終えて、「やっぱり、ライブってこれだよな」と思う。

フロアから引き払おうとすると、あっこゴリラを見ていた女の子たちの中に、ちょっぴり自己解放の苦手そうな、でも何か表現したそうな雰囲気の女の子たちがいたことに気づく。そういえば、ベッド・インのリリースイベントもこういう子がいた。きっと、ああいう子たちの憧れなんだろうな。

GREEN QUEEN

GREEN QUEEN

  • アーティスト: あっこゴリラ,STUTS,向井太一,ITSUKA (Charisma.com),OMSB,食品まつり a.k.a foodman,永原真夏,PARKGOLF,ヒラサワンダ
  • 出版社/メーカー: 2.5D PRODUCTION
  • 発売日: 2017/11/08
  • メディア: CD
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ウルトラジェンダー × 永原真夏

ウルトラジェンダー × 永原真夏

  • あっこゴリラ
  • ヒップホップ/ラップ

 

鼎さんがウルトラジェンダーに関するすごくすてきな紹介エントリを書いてます。

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ヒップホップは絶対的にかっこいいものなので-MAZAI RECORDSいちのロマンチシスト・ジャバラのヒップホップとクルーへの愛

「河原でのサイファーがこんなイベントになるなんて? いや、俺は信じていたぜ」

 

MAZAI RECORDS主催のクラブイベントTinpot Maniax vol.2」のオープンマイクでそう叫んでいたのはMCであり、トラックメーカーであり、DJであるジャバラだった。

 

MAZAI RECORDSが、たった3人でサイファーをやっていた頃、社会人としてその小さな輪に加わっていたジャバラは、自分たちのクルーへの愛情を事あるごとに口にし、時にはシーンに向けて辛めの言葉も投げつける。

 

ヒップホップへの強い憧れと愛情を照れずに口にし、それを証明するかのように音源を作り続ける。その一方で、サイファーだけでなくイベント「Tinpot Maniax」 (3月・9月開催のクラブイベント)などを開催。皆が集まる場を提供し続けている。

 

MAZAI RECORDSメンバーの中で最もロマンチシストなジャバラに、最初の挫折から現在の活動までの道のりを聞いた。

 

ただ楽しいから続いた3人だけのサイファ

―ラップをはじめるきっかけは?

 

Twitterでラップを聴いているアカウントをかたっぱしからフォローしていた時期があって、その頃に今一緒にMAZAI RECORDSで活動しているメンバー、ドクマンジュやヤボシキイたちとつながったんです。

 

ぼくはもともと中学の頃から上の兄貴を通じてヒップホップを聴いていて、さらに高校・大学でストリートダンスをやっていて、もともと親しみがあって。社会人になってからダンスをやめてしまったけど、大学が秋葉原に近いこともあってアニメもよく観ていたので、ラップとアニメ両方好きな人いるかなと思って。それが3年くらい前かな。

 

そのうちに、ドクマンジュとヤボシキイが自宅の近くでサイファーをやっているという話を聞いて。ちょうどその頃、土曜にぽ太郎さん(声優オタクラップの第一人者)と「ラブライブ!」のDVDをプライベートシアターで鑑賞して、日曜はラップをしながらBBQするという土日連続のオフ会があったんです。「じゃあ、ちょっとやってみよう」と思って、その前日の金曜日にサイファーに参加したのがきっかけですね。

 

ぽ太郎「声優興味なし(ごめんね)」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

MAZAI RECORDS主催の週一サイファー・カレー会はドクマンジュ・ヤボシキイ・ヘルガの3人でやっていた時期が長かったけれど、1人だけ社会人で、続けていくの大変じゃなかった?

 

仕事が忙しい時期なんかは12ヶ月行けない時もありましたけど、なんとか都合をつけるようにしてましたね。向こうも気を遣ってくれて、もともと木曜だったのを金曜にしてくれたり。

 

―その少人数でよく続いたなって思います。

 

なんでしょうね。全員根がオタクなんではまるとどっぷりなんですよ。最初はyoutubeでインスト音源を流していたんですけど、そのうちに自分たちで作ったトラックを流したり、ジャズやノイズをかけたり。ヒップホップって底がないんですよ。やってもやっても新しいことがあるから、自然と続けられたって感じですね。

 

社会人になると週一で顔をあわせる友達とか普通はいなくなるじゃないですか。だから、毎週顔をあわせて共通の趣味に打ち込める仲間って、ぼく自身も大事にしたい気持ちが強かったんですよね。そもそも楽しいものだし、必死で続けてきたというわけじゃないんですけど、改めて考えると3年経ったんだなって。

 

今までのやり方と違うところに正解があった

―曲を作り始めたきっかけは?

 

フリースタイルばっかやっててもあれなんで、曲作りたいねって話はしていて。最初は24bars to killっていう曲のインストの上に乗せてレックしようと思ってたんですけど、録ったところでクラッシュしてデータ全部飛んじゃって。

 

ドクマンジュは前からMPCを持ってたんですけど、説明書も難しいし、使い方もわからないからってしばらく放置していたのを、データがクラッシュしたあたりから本格的にビートを作り出して。

 

あいつにぼくが好きなソウルの曲をもとにトラックを作ってもらって、ソロ曲を作ってサウンドクラウドにあげたのが201512月くらい。そのレックの後に、ドクマンジュに「自分の好きな曲をサンプリングして曲作るの面白いですよ」ってそそのかされて、次の週にMPCを買って、翌々週にあいつの家で教えてもらいながら作りました。クリスマスもあいつの家で曲作ってましたね。

 

―自分の好きな音楽で曲を作れるのが楽しいって感覚なんだ。

 

そうですね。ゲーム音楽とかアニメの曲とか、ダンスミュージックとか、いろんなものをアレンジできる面白さがあって。あいつに「機材の初期投資くらいしかお金かからないですよ」って言われて、軽い気持ちで始めました。すげえ沼だったんですけど。

 

―作ってみてどうですか?

 

実は、ぼく凝り性なのもあって、最初の頃は1本作るのに1ヶ月くらいかけてたんですよ。でも、時間かけて作ったからといって必ずしもいいものができるわけじゃなくて。2小節分、すごくこだわって凝ったものを作ったとしても、それが3小節目とうまくつながらなければ音楽としては全然よくない。なんというか、点だけこだわって凝ったものにするけど、線としてつなげた時に曲としてはイマイチということもあって。

 

でも、ドクマンジュと話した時に、「人それぞれ適正時間はあるので。時間をかけて作る人もいれば、サクッと作れる人もいる。ちなみにぼくは日はまたぎたくないです」と言ってたので、ためしに日をまたがずに作ってみたら1ヶ月かけて作ったときよりのびのびとしたものが出来てきて。瞬間的なひらめきとかを大事にした方がいいのかなって気づきがありました。時間をかければかけるほど良いものができるっていう固定観念があったんですけど、それが通用しなかった。

 

リリックなんかもそうなんですけれど、長い韻を踏むのは時間をかければ誰でも出来るんですよ。でも、それが音楽的にいいかはまた別で、しゃべり言葉で作った方がスムーズに聴けたりする。

 

今は最初からなまじ知識があるから「フロウはこう」「ライムはこう」とかスキルのフォーマットみたいなものに気を取られて、変に身構えちゃったりする人もいる。でも、そういうフォーマットに合わせて作っても音楽的にカッコ悪いと意味がないんですよね。

 

あまり形式にとらわれないで、今までの考えと違うところに正解があったりするので、最終的にはそれを自分で発見していく……。そういうところにヒップホップの面白さがある気がします。

 

―この人が目標というのはありますか?

 

今はないですね。一時期KID FRESINOに影響受けすぎてたんですけど、そのケツ追ってコピーしてもかっこよくないなと思って。それより、自分が今まで生きてきて得たものとかをちゃんと出せるようにしたい。だから、好きなラッパーはめちゃくちゃいますけど、あえて「こうなりたい」というのは作らないようにしています。

 

自分のビートに仲間たちの歴史が乗っていく

―じゃあ、具体的な作品の話をしましょうか。さっき話していた最初の作品はサウンドクラウドにあるRoutine Boogieですね?

 

あ~~っれ、ほんっとうに聴き直したくないくらい恥ずかしいんですよ。ラップも下手だし、声も出てないし。すっげえ恥ずかしかったんですよ。聴いてほしくないくらい恥ずかしかったんです。でも、あれをコスモパワーさんっていう、同じ業種……IT企業に勤めてる仲間が聴いて「あの曲は社会人にとって普遍的なテーマを書いていて、すごく響く」って言ってくれて。

 

ぼくにとってはめちゃくちゃ恥ずかしい曲なんですけど、それを聴いて感銘を受けてくれた人がいたのがすごくうれしかった。あの曲はちょうど社会人3年目で、忙しい案件の中だけど、仕事を少し面白く思えるようになってきた頃の歌なんです。当時の生活リズムみたいなものをそのまま素直に出した曲ですね。

 

ヘルガ - 「ルーティーン・ブギ」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

MAZAI RECORDS名義の最初のアルバムは、20169月に出した「ILL THUG TRIPLE」ですが、これはどういう経緯で出来たんですか?

 

曲を作りたいという話はずっとしていたんですけど、ちょうどチンポジム(ラップ練習会)やG.I.R.L(女性向けラップ練習会)の企画が始まって、一緒に遊んでくれる仲間が増えたので、「自分たちが形にしているものがないと」というのもあってついに作った感じですね。

ただ、これ作り終わったのが8月くらいで、リリースは9月末。その一ヶ月の間にTinpot Maniax (3月・9月開催のクラブイベント)をやったりしているうちに、自分たちの中で鮮度が落ちちゃって……。でも、せっかく作ったしということで、意を決してリリースしました。

 

MAZAI RECORDSの曲ってオタクdisが多いじゃないですか。あれはどういう流れで?

 

自分たちがオタクなのにオタク馬鹿にするのはある意味同族嫌悪的なところもあるんですけど。でも、オタクだからという後ろ盾でダサいことやってる連中に対して「そういうんじゃねーだろ」っていうのがあって、それがリリックに出てる感じですね。

 

ただ、ぼくは去年くらいに「どういうやり方をすれば自分のラップがかっこよくなるか」というのを考えていた時があって。ぼくにとって、ヒップホップって絶対的にかっこいいものとしてある。で、ラップがめちゃくちゃうまければリリックがどんなにひどくてもいいけれど、今の自分が下品なことを言っても音楽的に聴かせる技術がないなと思って。それからあまり直接的にオタクをdisったりしないようにしています。

 

―歌詞によく英語を入れるのもそういうのを意識してるんですか?

 

日本語ってカタいじゃないですか。英語を要所要所に入れると流れがスムーズかなと思って。あとは、ちょっとカッコつけたいっていうのもあります。

 

―「ILL THUG TRIPLE」のオタクdisは本当に口汚くて……。

 

いやー、ほんとそう思います。最悪の塊みたいな。

 

―これはみんなでこういうガラの悪い曲にしようって話をしていたの?

 

そういう感じでもないですね。思い思いに適当に書いてつなげていったら最悪の塊になったみたいな。

 

3人のマイクリレーが面白いよね。それぞれ声質も、ラップのクセも、悪口の発想もちがうから、「次はこいつか!」みたいなのがある。「OTK HUSTLER」は傑作ですね。

 

OTK HUSTLER」は3月にTinpot Maniaxをやるときに、ライブでやれる曲を作ろうという話になって、「オタクが悪いことをして金を稼ぐ」という設定を作って皆でバッーと書いた曲ですね。ひょうひょうとした曲ですよね。

 

―思わず口にしたくなるフレーズが多いですね。フックの「お前ら犯罪者」とか、「マスターベーションマスター」とか。

 

「お前ら犯罪者」っていうのはぼくが思いついたんですけど、自分たちが悪いことをしているのに、他人事にしているのは面白いという話になって、そのフレーズを起点にケツで韻を合わせる形で2人がリリックを書いていったんです。でも、意味は何もない。誰一人として深いことは考えてないですね。

 

YABO$HIKI-1「OTK HUSTLER feat. Jabvara,DocManju」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

20163月に出したビートテープ「Earthbound」はちょっとハウスっぽくて、聴いてて気持ちがいいですね。

 

あれは、明るいものを作ろうっていうのがありました。ぼくのビートはどちらかというとメロウ寄りで、2016年末に出したコンピもそういう哀愁漂う感じだったんですけれど、同じ流れで作っても面白くないと思って。ダンスをやっていてクラブミュージックになじみがあるから、そういう昔聴いていたものに影響された部分はあるかもしれないです。

 

―ダンスをやったことは制作に影響していますか?

 

リズム感は培われたと思います。カウントに対して走り気味にラップしちゃうと、「こいつ音聴けてないな」って思われがちなんですよ。ぼくはダンスをやっていてリズム感が多少培われていたので、オンビートでラップするというのは念頭に置いていますね。

 

あとは、ダンスは聴覚的なインプットを、身体を使って視覚的にアウトプットするんですが、ラップは聴覚的なインプットを聴覚的なアウトプットにしなくちゃいけない。そこで、どういうことをすると「おっ」と思ってもらえるのかは意識しますね。声を伸ばしたりとか、詰めたりとかそういうアプローチはダンスによって培われた部分かもしれない。

 

―樫ちゃん(現在は宇鈴汲名義)の「16-07」と、ドクマンジュくんの「Mi AKAI」は、どちらも「ラップと自分」を振り返る、けっこうシリアスな内容ですね。「何歩遅れのスタートだ 関係ねえ 好きなもんが出来た(16-07)」とか「ラップさせたいわけじゃなく、誰より彼よりヒップホップに救われてほしいって(Mi AKAI)」とか。あれはオーダーの結果?

 

いや、好きに書いてくれって伝えたらなぜか同じようなテーマの曲があがってきました。樫のリリックは、あいつがラップやり始めた頃に、ぼくが何の気なしに言ったことがすごく励みになったって言われて、「ぼくと一緒にやるときはそのことを書くつもりだった」と言われていて。

 

ドクマンジュの方はビートを渡して依頼したんですけど、ビートからイメージしていたテーマにぴったりの内容で、リリックが届いた時に思わずガッツポーズしました。あれはぼくの意図をドクマンジュが組んでくれた感じですね。

 

でも、シリアスで共通点のあるテーマになったのは本当に偶然なんです。結果的にあのテープに自然な流れで入る内容になってますね。

 

―樫ちゃんに話したのはどのフレーズ?

 

それが覚えてないんですよね。ぼくはサイファーの時は酒呑んで酔っ払ってるから。でも、その時にぽろっと言ったことが「すごくうれしかった」って半年以上経ってから言われたんですけど、「あー、そうだったんだ」みたいな感じです。

 

―制作物にそれぞれの歴史が入り込んでるね。

 

ぼくは一回ダンスを辞めているので、もう一度ヒップホップをやることになって、その企画で仲間がいっぱいできて……っていう今の流れがすごくうれしいんです。自分が作ったトラックに樫とかドクマンジュとか、みんながその人の思いを乗せてくれて、それが誰かの耳に届いて感想をくれるって普通に社会人やっているとなかなか味わえないことだと思うので。みんなでものを作れる場所が出来たのはすごくうれしい。

 

―らいんひきさんとの共作「JabLin」はどういう流れで作ることになったの?

 

らいんひきさんとはカレー会の後に一緒に帰ることも多かったので、「一緒にやりたいね」って話をずっとしてたんです。彼の初レックは2016年末のコンピで、最初は小節の概念もわからなくて大変だったんですけど、腰を据えてやってみたいなと。

 

直前に作った「Earthbound」は、自分がトラックメイクを始めて1年の集大成として作ったものだったんですが、それと同じ事をしても伸びしろがないと思っていて、今まで自分が作ってきたクセを抜きにして一回やってみようと。ぼくはソウルやジャズが好きなのでよくサンプリングしてたんですけど、別のジャンルのエッセンスを取り入れてみようかなと思って。だから、ぼくが実験的なことをやるのにらいんひきさんをつきあわせたって感じですね。でも、気負いすること無くやってくれました。

 

―そういえば、ヘルガさんは聴き心地のいいビートを作ることが多いけれど、「JabLin」は重たいビートが多いね。

 

ソウルとかはもともと聴き心地がいいから、それをサンプリングするとそういう曲になるんですよね。だから、ノイズっぽいものを取り入れたりして自分の中で作れる幅を広げる挑戦としています。

 

―「Maze」は、「音を愛し音に悩み 音の中でもがきながら 呪いのような救いを  手に受ける」とか、具体的な制作の話を盛り込んでますね。

 

Maze」はダンスが嫌になって辞めてしまった時期から、今の仲間と出会ってラップを始めるようになってからのことを書いています。ダンス、高校ですごいはまったんですけど、大学のサークルがあんまりあわなくて……。モチベーションすごい下がっちゃって。でも、ぼく代表だったんですけど。社会人になって時間と場所も取れなくなってと言うのが重なって、やめちゃったんですよね。

 

Maze」はリリックを書くのも、ラップするのもしんどくて。ドラムはあるんだかないんだかわからないし、小節数も長い。でも、歌い出しは暗いけれど、最後はドラムで転換があるのが、徐々に暗いところから明るいところに出てくるようで。

 

北海道のフォロワーで、ビートメーカーのナスティーさんのトラックなんですけど、彼もドクマンジュにそそのかされてビートメイク始めたんですよ。もともと彼がトラックにつけたタイトルがMaze=迷路って意味なんです。だから、自分がヒップホップに出会った時のもがいている感じが表現できるかなと。

 

ぼくはわりと抽象的な言い回しを使うんですが、それを聴いた人がある日はっと気づいてくれればいいかなと思ってそうしているところがありますね。

 

―「Maze」は説得力のある曲だね。ちゃんと聴かなくちゃという気にさせられます。曲の展開から世界観を考えるんだ?

 

ぼくはリリック先ってほとんどないですね。リリックの書き方を忘れないように、メモ帳に書いておいたりはしますけど、そのまま使うことはないです。リリックだけ用意しても、曲に合わないとおかしいじゃないですか。

 

―「ERG4EVER」はアニメか何かの話?

 

これはぼくもらいんひきさんもギャルゲーが好きで、いろんなギャルゲーを四季に合わせて春夏秋冬を表現してラップしています。直接的にオタクっぽいことやるのはやめようって思ってたんですけど、せっかくお互いギャルゲー好きだから1曲やろうってことになって。

 

MAZAI RECORDSの面白いところは、お互いに客演することで新しい個性が出てくることですね。ヤボシキイくんのアルバム「テンシルエア」に入ってる「お小遣いも貰えない」とか。「お小遣いも貰えない 昔は会うたびもらってたのに」というフレーズが印象的です。

 

ヤボシとこの曲でやろうという話は前からしていたんですが、その頃にヤボシのおじいさんが亡くなって、R.I.Pする曲を作ろうという話になって。

ぼくのおじいちゃんが亡くなったのは中1くらいの時なんですけど、5歳くらいの遊んでもらった時の記憶をもとに書いています。ぼく一人だとこういうテーマでは書かないので、あいつが引っぱってきてくれたという。これもなすティーさんのトラックですね。

 

競い合い、作り続けることによって保たれるモチベーション

―「ILL THUG TRIPLE」が2016年9月、コンピ2枚「MAZACON1」「Python Code」が2016年12月、「もつ酢飯EP」「テンシルエア」「Earthbound」が2017年3月、ヤボシキイ2枚目「ENERGY WAVE」「JabLin」が2017年6月、そして今回同人音楽即売会「M3」に参加と、制作ペースの早さはMAZAI RECORDSの大きな特徴だと思うけれど、どうしてあんな早いペースで制作できてるの?

 

ぼくらがやっていることってインディーズですらない……。もう無名も無名なんですよ。しかも、ポップじゃなくてアングラ寄りだし。無名がアングラやるってことの人目を気にしなさもありつつ、やっぱり、作ったからには聴いてほしい。そのためにどうするかというと、やっぱり継続的に活動していくというのが一番大事かなと。

 

ドクマンジュと話したのが、「3ヶ月に1回は何か形のあるものを出す。しかも無配でというのが大事」ということでクオーター単位で目標を作ってます。モチベーションも維持できますし。

 

―合間にTinpot Maniaxが入るのも、いいサイクルになっていると思います。自分たちが作ったものを発表する場になっているね。

 

Tinpot Maniaxは3月9月だから、ちょうどクオーターのケツに来るんですよ。だいたい制作が佳境に向かっている時にイベントがあるっていう。それで大変な思いをするんですけど、自分が好きでやってるわけだしその制作、イベント、制作っていうサイクルにケツを叩かれている部分はありますね。

 

あと、ドクマンジュが前に「特にビートメイクは身内を一番意識してる」と言ってたんですけど、ぼくもそういうところがあります。身近な仲間が精力的に活動していて、しかもかっこいいものを作ってくるんで、おのずと刺激を受けざるを得ないっていうか。ぼくはあいつが作るものに刺激を受けて、「負けてらんねえ」ってすごいモチベーションをもらってるので。

 

―ブッキングはどうやってるんですか?

 

最初のTinpot Maniaxは都内のレンタルスペースを借りて身内だけでこじんまりやってたんですけど、川崎のアニソンDJバー「月あかり夢てらす」になってからは、もともとドクマンジュと交流があったMr.Smileさんが、ShirayukiさんとのユニットSNOWSMILEでライブに来てくれたり。そのMr.Smileさんが3on3バトルのために読んでくれたカクニケンスケさんが次にライブをやってくれたり

 

9月のTinpot ManiaxOLD RIVER STATEは、もともとオーリバのメンバーの松元さんが出した「Instagram EP」というのがすごく面白くて、ラップもうまいしドクマンジュが呼びたいって言ってたのでお願いしたら、オーリバで呼んでくれるならという話になって実現しました。

 

DJをやってくれたKATAOKAくんは、ドクマンジュの中学の友達なんです。茨城のMC・GOTITさんが主催しているMCバトル・常陸杯で再会して。そこで「イベントでDJやってよ。じゃあ、ライブも」という話になって、ALSEADさんがライブで参加してくれました。

 

GOTITさんとか呼煙魔さんはTwitterでの関わりがあって、それがきっかけで呼べたというのがありますね。

 

―お客さんの中にもTwitterつながりでイベントに参加してくれる人が多いよね。

 

そうなんですよね。仙台住まいの遊牧民さんとか、秋田のハリーさんとか。わざわざぼくらのイベントに来てくれて。こっちに来るきっかけがぼくらのやってることってのもうれしいです。

 

―それでは、今後の制作について。

 

音楽同人イベントM3に向けてアルバムを作っています。MAZAI RECORDS名義で、ぼくのソロと、ヤボシ&ドクマンジュのユニット「大丈夫音楽」で合計2枚。ぼくのほうはこれまでの3年間で自分がやってきたものの集大成で、自分が好きで観てきたもの、聴いてきたものを表現しようという感じです。

 

ムノウちゃんとヤボシに参加してもらってRoutine Boogieのpt.2を作りました。ヤボシもムノウちゃんも今年から社会人なので。あとらいんひきさん、ドクマンジュとも曲やってます。

 

Jabvara「Routine Boogie pt.2 ft.YABO$HIKI-1, Munou」 by studio tinpot | Free Listening on SoundCloud

―出会った頃は大学生だった仲間と、新しく仕事の歌を歌うのいいですね。具体的な目標はM3として、活動全体に対する今後の目標はありますか?

 

ずっと続けていきたいっていうのはもちろんですけど、自分の作ったトラックに誰かがラップを乗せてくれるのはすごくうれしいので、今後は身内以外にも色んな人と曲を作ることが出来ればいいなと思います。

 

―読んでくれる人に言いたいことはありますか?

 

誤解されてるところがまだまだあると思いますけど、生活に物足りなさを感じてる人はヒップホップやってみてください。

 

ヒップホップの起こりそのものが抽象的なものだと思うので、固定観念にとらわれてもいいことがないというか。未完成であるがゆえにどんどん変化していくから、自分が表現する余地がまだまだあるんじゃないか。そう思えるところがやってて飽きないところですね。

 

―出来上がっていないからこそ入り込みやすいというか、面白いのかもと思います。面白い人が好きなように生きてるジャンルですね。

 

特にMAZAI RECORDSに関しては、一癖ある人が集まってくれて、みんな思い思いの事やってるんで。「全然ヒップホップ知らないけど、ラップやってみた」という人のラップが突拍子もなさがあって新鮮さだったり。そういうのはうちのメンバーから学んだことですね。本当にヒップホップは可能性の塊だと思います。

 

※ MAZAI RECORDSは10月29日「M3」にて初の有料音源を販売予定。

今後の活動にも期待大!

 

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