ホンのつまみぐい

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「Anthology Live vol.2【2005~2009】」空気公団×クラムボン@渋谷クラブクアトロ

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クラムボンの途中から入場。

 

いっぱいになった会場が静かにステージを見つめている。もう2曲目だったようで、フロアがじっくりとあたたまりはじめたところだった。

 

途中、ギターとドラムの長い間奏が入る曲があった。「re 雨」かな? ゆっくりと激しくなり、厚みを増していく音。熱を増していくバンドの音に、スッと乗り上げるように原田さんが声を乗せる様子がとても美しかった。うん、音楽が声を乗せる船のようだ。バンドってすごいな。

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クラムボンが終わると、山崎ゆかりさんとのコラボで呼び声。

終わっての第一声が山崎さんの「最高に贅沢なカラオケじゃない?」。初めて知ったが、クラムボンの3人と山崎さんは同窓なのだとか。しかも、2マンは初らしく、お互いが感慨を語る瞬間が、この日は何度も訪れた。

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原田さんの丸みのある声に比べると、山崎さんの声はとてもクールだ。冷たいわけじゃないけど、湿度が低い。山崎さん、何に憧れてこの場に立っているのか、検討がつかない人だな。

目を瞑って聴いた時、クラムボンが連想させるのが懐かしいみんなのうたのアニメーションなら、空気公団は人の映っていない、晴れの日の風景写真。

音が膨らんでフロアを満たしていくように思えたクラムボンと、引き算をするような、スッとした音の空気公団。まあ、空気公団クラムボンほどメンバー編成が安定していないせいもあるのかも。

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空気公団を知るきっかけの「青い花」が聴けて、少し懐かしい気持ちになった。「青い花」は志村貴子の同名コミックのアニメーション主題歌。あの頃はライブハウスに行く習慣なんて全くなかったな。

 

最後は再び、コラボレーションの「旅をしませんか」で〆。

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クワトロ名物、ステージ両脇の柱のせいでよく見えなかったけれど、肩を大きく出した青いドレスの山崎さんと、緋色のトップスの原田さんのコントラストもよかった。

 

終了後の出口近くに、山崎さんが3人に宛てたという手紙が会場に貼りだされていた。音楽の専門学校時代の昔話に加えて、音楽家としての誠実さに敬意を示す内容。最近「続けてきた人」の話に弱いので、スッと心に入ってきた。ただ、これは二組のことをよく知っている人の方がどうしたってグッと来るはずで、クラムボンもっと予習すればよかったなという悔しさもちょっと。

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クラムボン・ベスト

クラムボン・ベスト

 

 

ぼくらの空気公団

ぼくらの空気公団

 

 

amiinA×アイドルネッサンス×Maison book girl 「Arch Delta Tour」Trident@新宿BLAZE

めっちゃ長文で感想書いてたのに、現場で取っていたメモも含めて私のミスで全部消えました。アホすぎる。記憶でざっくりと再現。

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OP映像で3776井出ちよのちゃんがあいさつ。ステージには鉄骨が汲み上げられていてシャープな雰囲気。ブレイズ8割埋まってたいたのに信頼の高さがうかがえました。

アイドルネッサンス

ルネは3回目。すべてamiinAの主催対バンで観ているのですが、この日が一番よかった。振りコピしやすいダンスと、カバー曲メインだからこそのクオリティの高い楽曲。そして、メンバーの安定感のあるダンスと歌唱。

この日は前半にかなり爽やかめの曲を持ってきていて、メンバーの清涼飲料水みたいな雰囲気とあいまってとてもまぶしかったです。

おかっぱ頭が特徴で、よく話題にあがる石野理子さん以外、メンバーの顔と名前が一致していないのですが、そのくらいのほうが楽しく観られる気がするので、今後もこの距離をキープしたい。(とか書いてたのですが、ルネもツイッターはじめちゃったんですよね。嫌でも覚えちゃいますね……)

ルネの名曲カバーってコンセプトには、正直あんまり好意的ではなかったのですが、終わった後にフロアのオタクが、口々に自分と原曲との思い出を満足げに語っているのを見て、それぞれのアンセムを新たに知れるいい機会なのだと捉えなおしました。

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前髪がゆれる

前髪がゆれる

 

 

Maison book girl

ポエトリーリーディングからの始まり。

音はもちろんダンスも特徴的で、鋭角的なフォーメーションや、笑顔の浮かばない表情など、どこか閉じた世界観が魅力のブクガ。

正直、前までは「それっぽいダンスをやっているアイドル」という印象だったのに、ちゃんとブクガの世界観を表現するためのダンスになってました。過去2回は「葵ちゃんの『オイオイ!』かわいいな」とか「同じお辞儀の仕方でもメンバーそれぞれ違って面白いな」とかいうほつれのような瞬間があって、むしろそれがアイドルらしい面白さなのかなとも思っていただけど、そういうスキでフックを作る必要がない。

幾何学模様、煙、水面などが映るVJも歌詞とリンクして、コンテンポラリーダンスのよう。

持ち時間が60分と長尺のため、10分近いインステゥメンタル曲を間に挟んで来るという攻めた構成。

そして、その長いダンスが終わった後、拍手をしていいのかちょっとためらうフロア。空気を壊すのを恐れつつ、思わず手を叩いてしまうという感じがよかった。

アイドルに限らず、ライブって基本熱量で押していくことが多いですが、ブクガは完全にサクライケンタの世界観を尊重しつつ、ちゃんと満足感のあるステージを作るのがすごい。アー写やライブで一切笑顔を見せないというのも、今のアイドルシーン知らない人にはびっくりですよね。

最後は、ある日おじさんの前に現れた猫とその死別を語ったポエトリーリーディングで〆。

しかし、PassCodeや、やなことそっとミュートの人気も含めて「いい曲」はもちろん、「顔のいい女の子」がやっぱり不可欠なのかなとも。いや、アイドルだからそりゃそうなんですが、逆に「曲やライブはめちゃくちゃいいけど、メンバーが普通」という場合の微妙な伸び悩み方なんかを見てるとね。

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amiinA

正直ブクガの作った空気が強すぎて、今日は優勝できないんじゃないかと思ったのですが(優勝:その日イチ最高に盛り上がるというオタクスラング)、そんなことなかった。amiinA強い。

夢中になって楽しんだためか、あんまり細かいことは覚えていませんが、valkyrieのフルバージョン披露の後、肩で息をする様子の爽やかさとか、「あの時描いた/ 空想かかえて/本当の歌/選んだからここにいる」で振り絞るように歌うmiyuちゃんを見つめるamiちゃんの姿とか、ほがらかでちょっと間の抜けたMCとか、はしばしに気持ちがあったまる瞬間のあるステージでした。

 

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この日はcanvasの合唱のことを指して、「早くあーあーあーあしたい」ってつぶやいている人いたけど、私はlillaの「リラリラリラふふーっ」のところも振り付け含めて好きです。

 

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しかし、MCで語られた「amiちゃんが毎日学校帰りにきゅうりを買ってる」話も、「miyuちゃんがamiちゃんのためにきゅうりを育てている」話も童話のようだな。

最後はamiinAはじめてのアンコールが実現。ここはどんなにいいアクトの後、声を枯らさんばかりにアンコールしても、基本答えないんです。きっちりステージを終わらせる。それでも、ファンはアクトへのお礼のようにアンコールしちゃうんですよね。この空気好きです。

「普段はアンコールやらないから、呼んでもらえるか心配だった」というふたりはヴァルキリーのジャケットに使った白いゆったりしたブラウスで登場。

MiyuちゃんがハモニカをふきながらのI’m Home。「列車に揺られてあと少し/家に帰ろう」というあったかい歌詞が沁みました。いちいち粋だ……。

ライブ後の雑談も楽しかったです。「青春→内的宇宙→生命という流れがすごかった」という話をしたような。そして、アエロさんはいつも熱い。

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Avalon

Avalon

 
Valkyrie

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「大森さんに寂しい想いはさせないぜ」Have a Nice Day! × 大森靖子 2マンライブ@TSUTAYA O-EAST

大森さんもハバナイも書き手がいっぱいいるから、私が書かなくてもいいんですけどね。ま、日記でもあるし。

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ハバナイはリキッドルームぶりだったのですが、浅見北斗さんがいい意味で丸くなっていたというか、ヒリヒリした感じがなくなっていました。語りたいことをMCで語りきれない不器用さも含めてチャーミング。

大森さんは愛してる.comのリリイベぶりかな。長めの弾き語りはエモーショナルさより優しさが前面に押し出された感じ。

 

「『浅見北斗潰してくださいよ』とかハバナイのファンの人に言われたけど、私たちが潰さなくちゃいけないのはこんなところに来てしまうあなたたちのやるせなさです」


「新宿のタワレコでのライブに浅見くんが来てくれた時に、握手では何も話してくれなかったのに、楽屋で『大森さんに寂しい想いはさせないぜ』って言ってくれて」

 

愛のあるMC、聞けてよかったです。あと、人の曲で踊る大森さん初めて見たかも。

ダイブした浅見さんを片手で引き上げる大森さんと、それを受けてひょいとステージに戻る浅見さんの自然な呼吸や、二人で顔を見合わせてFantastic Dragを歌うところなど、なんだか男女バディもの映画みたいな爽やかさがありました。その一方で大森さんもハバナイもそしてフロアも、焦がすような熱ではなく、温めあうような熱を発していてほっこり。

 帰りは松本てふこさんと番外地でラーメン。楽しかったです。

 

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Fantastic Drag (feat. 大森靖子)

Fantastic Drag (feat. 大森靖子)

  • Have a Nice Day!
  • J-Pop
  • ¥250

 

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初心者はわかりやすさに感動、ヘビーリスナーはウザさに共感すること間違いなしの日本語ラップガイドブック「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」(服部昇大)

■初心者からヘビーリスナーまで、退屈させない切り口の多様さ

フリースタイルダンジョンを見た。→MCバトルかっけえ!→ヒップホップって音楽なの?→曲聴いてみるか→どれ聴けばいいのかわからん→いつの間にか飽きた。

というコース、絶対少なくない。フリースタイルダンジョンがもっとも盛りあがっていたのは2016年前半だと思っているけれど「音源聴け聴け言われるけど、何聴けばいいかわからん」ために何となくカルチャー全体への興味が薄れていった人は何人いるだろうか。

番組開始から1年8ヶ月して出た「ミュージックマガジン 日本のヒップホップ・アルバム・ベスト100」が話題になったのは、「そういうものが何もなかったから」でもあるはずだ。

とはいえ、ミュージックマガジンは音楽に関心のある人が読む雑誌だ。レビューは音楽が好きな人に向けて書かれているし、雑誌としてそのように書く責任がある。

「ヘビーリスナーから初心者まで」を標榜した「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」の美徳は「音楽が好きじゃなくても楽しく読める」し、「音楽が好きじゃなくても日本語ラップは楽しい」ことがわかる内容であることだ。

主人公は日本語ラップを愛する少女「美ー子ちゃん」。某日ペンの美子ちゃんを参照した少し古風なビジュアルの少女が、時に「イル」だの「レペゼン」だのといった用語を解説し、時に愛聴している盤を紹介し、時に日本語ラップに関する偏見に切り込む。

美ー子ちゃんのたとえは一貫して平易で見事だ。たとえば、用語解説のフック=サビの項。

HIPHOPではサビのことを「フック」を呼んで、Aメロ、Bメロを「バース」と呼ぶわ。「バースをキックする」と聞くと、カタく難しげだけど、「一小節目を歌う」って意味だと思って間違いないわ。

わかりやすいし、実際に聴く時役に立つ!

また、「日本のラッパーはボンボンばかり」という偏見に対し、ANACHY、2WIN、KOHHのリリックを引き、「ボンボンがごはんに醤油かけないでしょう!?」と対抗するのもわかりやすい。

と思えば、SIMILAB「Page1:ANATOMY OF INSANE」を紹介するレビューでの「SIMILABメンバーの目立つ特徴と言えば、ハーフが多い事よね。見た目がほとんど黒人のメンバーも複数いる(でも英語は喋れないらしいわ)こともあって、そういう「日本人っていうマイノリティのなかでの、さらにマイノリティな存在」としての不満や怒りを歌にした曲もあったりするわ。」など、文化の背景に対する目配せのたしかさも見せる。

一方、SKY-HI×SALUSay Hello to My Minions」では「SALUなんて悪役キャラのほうが絶対似合ってると思わない?!」とMVにおけるSALUの顔芸力に言及したり、最大18分、57人参加のマイクリレー曲として「Walk This Way 58 Feat」を紹介したり、もはや音楽とはあまり関係ないようなおもしろ要素を引っ張り上げる手際がうまい。これまで発生した歴史的beefなんかも紹介されていて、「ヒップホップは別に音楽を基準にしなくても楽しめる」のがよくわかる

また、ギャグマンガ家だけあって、おもしろラップの紹介がボリューミー。わざわざ1章使ってMC松島、秘密結社MMR、METEOR、YOUNG HUSTLEらの曲を取り上げる気合いの入れよう。作者の理解を感じるのは、それをギャグラップと表現しないことだ。ギャグは笑わせるためのものだけれど、おもしろラップは必ずしも笑わせるつもりはないからだ。

■「そんなこと言っていいのかよ!」もヒップホップならあり

ところで、私は端々に感じるインテリジェンスももちろん魅力だと思うのだけど、本作の最大の個性は美ー子ちゃんの口の悪さだと思う。

「あの○○とか○○○のCMってくそださいわよね」
「にわかのお客様は帰っていただけますか?」
「いいことばっかり歌ってる売れ線Jポップの弊害だわ!」

など、とにかく容赦なくイヤミったらしい。

しかし、私はこれを見てバトルを見始めた頃の衝撃を思い出す。それすなわち「そんなこと言っていいのかよ!」というやつだ。そう、ヒップホップはバトルだけでなく、音源だって「そんなこと言っていいのかよ!」の連続だ。麻薬売ってる話を曲にするのがジャンル(ハスラー・ラップ)として認められている文化なかなかない。

言いたいことを言ってしまう奔放さ、そしてそれを飲み込んでしまう文化の寛容さ(もしくは適当さ)。ヒップホップという物差しが肯定出来る世界の幅は広い。

■ヒップホップに呪われたマンガ家によるイズムの体現

ここで少し作者の仕事を振り返る。ギャグマンガ家・服部昇大田我流の名曲から名前を取った「墓場の漫画Digger」という、誰も知らないマンガを紹介する連載をやっていたのだ。ここで取り上げられたマンガの「誰も知らなさ」は半端ない。私はマンガに関しては比較的くわしいつもりだったけど、ここで紹介される作品はほとんど見たことすらなかった。

しかも、取り上げ方も「いがらしゆみこのブラジャーマンガ」や「なまぐさ坊主マンガ」など。歴史に残る名作だからとか、心に残る内容だからとかいうわけでもなく、とにかく「俺がここが面白いと思った」の連続なのだ。お金がない頃に岡山のブックオフの100円コーナーでマンガをあさっていたという、当時の作者のリアルが感じられるし、その「俺の物差しでいいと思ったものを堂々と語る」姿勢はヒップホップっぽくもある。

また、服部昇大の日頃の作風である「ちょっと昔の少女マンガ家の絵柄でギャグを描く」というねじれにはサンプリングというヒップホップにおける曲作りの原則を連想させる。

そう、美ー子ちゃんはただのマンガで読む日本語ラップ紹介本ではなく、日本語ラップにハマってそのイズムにかぶれたマンガ家が、マンガという手法でそのイズムを体現している入れ子構造のような、しかしめちゃくちゃ読みやすいガイドブックなのである。

ところで、美ー子ちゃんに対して「クロエの流儀に似た姑息さ」という感想を見かけた。ムカつく作風なので嫌われるのはしょうがないと思うけれど、ひとつだけ間違えているのは、作者は好きなものをおもしろく紹介したいとは思っているけれど、美ー子ちゃんというキャラを好いてもらおうとは特に思っていないので、そこだけは違う(たぶん)。
あと、ラップのCMに対して投げつける「くそださいわね」って言葉、だいぶむかつく感じに書いてはあるんだけど、実際ヒップホップオタクって「ダサい」って言うの大好きなので生態に沿っている面もある。

konomanga.jp

昔のブログやnoteにも日本語ラップ関連記事がある。2008年のRUMI対般若の話とかも。

d.hatena.ne.jp

note.mu

ちなみに元になった同人誌「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」「日ポン語ラップの美ー子ちゃん2」に相当数の書き下しを加えているので、同人誌を持っている人でも十分楽しめる。逆に、同人誌にしか登場しないラッパーや作品もあり、今回気に入った人は再版検討中という同人誌も要チェック!

t.co

誰かの「怒り」を見捨ててはいけない―ロック・タップ・バレエ・器械体操……ハイブリッドな表現で「尊厳」を描くビリー・エリオット

映画リトル・ダンサーのミュージカル化である「ビリー・エリオット」で、久々に感情がじゃーじゃーあふれてくるという体験をしてしまった。だいたい毎年1年に一度くらいだから今年はもう最後かな。

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※全体的にネタバレありです

ビリー・エリオットは炭鉱街に生まれた少年がバレエに目覚め、街を出て行くまでの物語だ。

サッチャー政権化で仕事を失った炭鉱労働者たちのストライキの場面から、物語がはじまる。ビリーは揺れ動く街で、偶然バレエを始めることになり「バレエダンサーになりたい」という夢を抱く。しかし、ストライキ決行中で仕事に行けず、バレエは女のやるものと考えている家族にはそんなことは言い出せない。それでも、彼は身体の中にある表現したいという気持ちを抑えきれない。

物語の中では、少年の夢への熱情に加え、社会が見捨てた人々の怒りと悲しみが描かれる。「ストライキなど無駄だ。炭鉱は滅びを待つ場所だ」という主旨の言葉も本作には登場する。たしかにそうかもしれない。でも、そこで働いてきた人々の誇りは? 虐げられてきた怒りに気軽に「現実的になれよ」と言えるか?

単なる天才の立身出世ものではない複雑な背景を持った物語を、ミュージカルに落とし込む手管が見事すぎる。

まず最初に「き、来た!」と思ったのが、ストライキのために立ち上がる炭鉱労働者のシーン。観た人は「冒頭じゃねーか!」と思うだろうが、もう、ステージの人々が客席に向かって声を揃えて歌うだけで「これこれ!」感ある。

ほかにも、警官とストライキ側の衝突の場面のダンスがもう「アッ、これミュージカルじゃないとなかなか見れないやつ……好き」ってなってしまった。男性陣だけの華やかさがないある種器械体操的なダンスってめっちゃツボ。エビータのエリートのゲームとか、映画だけれどプロデューサーズの銀行の場面とか。小道具にイスや机を使っているのがたまらん。

ミュージカル嫌いな人は「いきなり人が立ち上がって歌い踊りだすのが不自然すぎる」という。しかし私は問い返したい。

みんなの感情の大きさって自分の日頃の行動で表現できるサイズに収まってるの?

でかい声で音に乗せて歌うことで伝わる感情。体中を開放するように踊ることで伝わる感情あるじゃないすか、確実に。

ビリー・エリオットでもっとも感情が爆発する場面は、父と兄にバレエダンサーになるという夢を否定され、オーディションに出向くことさえ許されなかったビリーが、グラムロック調のサウンドに合わせてタップダンスを踊りだすところだろう。

Angry Dance、怒りのダンスと名付けられたこのシーンでは、激しきかき鳴らされるギターの音、タップの音、そして彼の叫び声が重なり合う。

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この、タップとグラムロックというのが正しいと思う。

タップダンスの由来には諸説あるが、暴動を恐れた白人が、黒人の集まる場所でのドラムを禁じたことにより代替行為として普及・発展していったという説を取るのなら、バレエを取り上げられたビリーの、怒りを乗せるダンスとしてこんなに適切な舞踊はない。

また、中性的な魅力で社会を魅了したデビッド・ボウイやT=レックスを思い出させるグラム・ロックを背に踊るというのも、本作の持つ本質を考えると、とても正しい。男らしくないとバレエを否定されるビリーはもちろん、恋心を抱く女装好きの少年・マイケルにも紐づく。マイケルは、ミュージカル中でも姉や母の服を着ながら、「好きな格好をして何が悪い。」と歌い踊るのだ。

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そう、マイケルの例はとてもストレートだけれど、この作品はすべての人間の誇りや尊厳を尊重していて、何よりそこがすばらしい。

ホリプロの社長がとてもわかりやすくツイートしているので、転用させていただく。

 

 

 

 

 

作中には、「社会主義も炭鉱街もそこで働く人々も、滅びを待つだけの時代遅れな存在である」と否定される場面がある。でも、人が生きていくってそういうことではないんだよ。

時代遅れと揶揄されるビリーの父にも、兄のトニーにも誇りがあって、だからこそ炭鉱街を捨てないためにストライキを行う。それは必ずしも彼らの生活を豊かな方に導かないかもしれない。でも、作り手側がそこに誇りがあるかを理解しているかで物語の印象がまったく違ってくる。誰一人として作り手に見捨てられていない。当たり前であったほしいけれど、そんな物語はなかなかない。

ストライキに敗れた炭鉱夫たちが、最後にビリーへの別れの意を込めながら再び炭鉱に消えていく場面で歌われるのが「それでも尊厳を捨てない」というテーマの歌であることに涙しないわけにはいかない。レ・ミゼラブルの民衆の歌とか、蜘蛛女のキスのその次の日とか思い出す。あの、ステージのみんながこっち向いて尊厳を歌い上げるって最高なんだよ。私の好きなミュージカルっぽさ……。

ほかにも途中から白鳥の湖ミクスチャーロックリミックスになるElectricity(面白すぎてちょっと笑ってしまった)とか、中吊りで空を舞うビリーの身体能力の高さへの驚きや、その舞踊の美しさとか、バレエ教室の女の子たちがキャーキャーするところのかわいらしさとか、言いたいことはいくらでもあるのだけど、とりあえず一言「行ける人は行って!」

 

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そう、今では見る影がないけれど、私は中学の頃に友人から劇団四季のCDを借りて毎日「オペラ座の怪人」(市村正親版)を聴いており、歌詞もすっかり覚えていたというミュージカル大好き人間だったのだ……。金がなくてあまり現場に行けなかったから、オタクとは名乗れないし、CDを聴きすぎて楽しみにしていた舞台に乗れなかったなんて経験もあり、実際にこの目で観たステージの数はたかが知れているけれど。ミュージカルって、けっこう社会的で現代的なテーマを扱ってるのでそこが好き。

 

 

 

 

 

 

ヤバい遊びが生まれる現場は進化を止めないやつらがいる Tinpot Maniax vol.4 @月あかり夢てらす

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 開会宣言で「キモオタクの皆さんの時間はこれで終わりでーす!」というホストMC、ヤボシキイくん。

声豚ラップの第1人者、ぽ太郎さんのアニソンDJの後の言葉だった。チンマニの人脈はオタクがメインだから、当然アニソンDJはペンライトつきでわっと盛り上がった。ちなみに、ぽ太郎さんは、机にしまわれたままのラブレターを開帳したようなエモーショナルなアルバム「One Cours One Life」を5月に配信しているので必聴。

ぽ太郎 One Cours One Life

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※当日のDJMIX

言うまでもないけれど、ヤボシくんの言葉はぽ太郎さんのDJを否定するためのものではない。続く言葉はこうだった。

「キモオタクがラップすんのって全然珍しくねえし、ダサくねーかーー??」

「俺たちは楽しいことやってるから特別なんだろーー!オタクでもラッパーでもいいよ〜〜!」

1年前の第2回チンポマニアックスは、「オタクがラップする」イベントだったし、本人たちもそう言っていたのに、そんなアイデンティティはもう過去なのだ。

この日の最初のライブは運営のJabvaraさん。自作のトラックの上で新曲をストイックに歌いこなす。

MCは「昔はダンスやっていたけど、大学に入って辞めてしまって、こいつらと会ってまたヒップホップをやるようになった。おれは一回あきらめちゃったけど、また出来てうれしい」という話。最後が「初めて会った時はみんな学生だったけど、今は社会で一緒に戦っていく仲間として」というMCから、ヤボシくん、ムノウちゃんを交えてのマイクリレー曲で〆たのも熱かった。

お次はゲストライブのALSEADさん。メロウなビートに端正なラップがかっこいい。
「音楽にはつらいことを反転する力があると思うんですよ」というMCからの呼煙魔beats「PAin’S LEAkeD」で〆。

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そしてチンマニ名物パンチラインカウント制バトルは今回30秒2本。第1試合、いきなりフリージャズ調のピアノではじまって、うろたえるオラディーさんと遊牧民さん。しかし、遊牧民さんが応援団仕込みのバイブスというか大声で勝利。


1回戦はほぼ全員ビートに乗れずに、いやビートと呼べるトラックがほぼかからないまま終了。そして、これまでのチンマニの伝統にならい、ヤバいこと言うと点が入るパンチライン制にひっぱられた性癖暴露が続いた。

誰のか忘れたけど、「ツイッターがなかったからイキリオタクになれなかっただけだ!」「お前はもっとキモくなれるぞ!」はチンマニらしいライン。男子校ノリで自分をさらけ出すバトル。

ちなみに、この日は搬入前にパソコンが壊れてしまったDocmanjuくんが、iphoneをいじりながらビートを流していた。

KATAOKAさんによる日本語ラップセットDJでひとしきり盛り上がって、お次はもつ酢飯のライブ

メイド喫茶のような衣装で、もつ酢飯のifユニット「チョコレートマカロン」として登場。チョコレートマカロンは、「ユニット名の由来がふたりの好きな食べ物」というもつ酢飯が「もっとかわいい食べ物の名前をあげていたら」というifをもとに出来た架空ユニットで、同名の曲もある。

おとめちっくサブカルな「チョコレートマカロン」から、「But、無理isよくない」を歌い終えていきなり「もうやってらんねー!」「無理はよくねー!」「私がワッショイサンバだー」「私がムノウだー」「チョコレートマカロンは死んだ!」という茶番から「もつ酢飯のテーマ」「ブラック・リフレクション」「服屋ウォーズ」。ラップはもちろんだけど、「女の子!」「男の子!」「1階席!」「2階席!」とか、煽りとMCがずいぶんうまくなって、自然に盛り上がるようになっていて驚く。お遊戯会みたいな衣装だったけど、ガチ感出てきた。

 

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お次は茨城県古河市から来たOLD RIVER STATE。イキのいい、フィジカルの強いラップ。音もふるまいもヒップホップという言葉から連想される、どこかぶっきらぼうな感じがつまってるけど、陽性の楽しさとパワーがある。メンバーの声がそれぞれ特徴的で、マイクリレーも聴きごたえがある。

「おれらは音楽のオタクだー!」と叫んで、チンマニのバトルを「自分の持ってるものを引き出すのが大切なんだなって思いました」という好意的な言葉で表現してくれた。

オープニングのぽ太郎さんのDJについて「叫ぶ時になったらブースの前に行って叫ぶってのが、ヒップホップと一緒」と話してから、コーレスを誘ってくれた。演者の熱とフロアの熱がブワッとぶつかるような盛り上がり。こういう熱気が波みたいに押し寄せる現場、いいなあ。

OLD RIVER STATEの力はもちろんだけど、なんだか1年たってオタクの方もヒップホップの盛り上がり方についての心得てきたような気がしてきて、これは場の成熟じゃないか?

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Spikez, Batz & Sluggaz

Spikez, Batz & Sluggaz

 

 

ライブが終わりDocmanjuくんが「PCが壊れた悲しさを曲にしようと思ったけど、楽しくなっちゃったから作れない」と一言。

そして、バトルの後半戦。ゲストのALSEADさんが途中参加で、「〇〇が性癖」という自虐パンチラインで押し切って優勝。〇〇の中身は現場だけの秘密。本来なら笑ってしまうのが申し訳ないような内容だったけど、めちゃくちゃ面白かった……。まさしく「音楽はつらいことを反転する力がある」の実践。

そして、Docmanju×ヤボシキイのユニット・大丈夫音楽。ジャンル的にはエレクトロノイズでいいのかな?PCが壊れて思うような音が出せないDocmanjuくんと、相変わらず歌詞を飛ばすヤボシキイくんというほつれのあるライブだったけど、一方でつきあいの長いふたりのお互いに対する理解の深さが感じられてちょっと微笑ましかった。今度は両者ベストコンディションで観たいね!

 

お次はセッションの時間

「能動的に音楽を摂取してもらうというやつです」という案内があったけれど、要は100均で買った日用雑貨をみんなで叩くだけというやつ。バケツ、手鍋、布団ばさみ、ビニール袋をもってみんなで好き勝手に叩いてガサガサ音を出していく姿は原始のお祭りみたいで、ノッた時のソウル・フラワー・ユニオンもしくは渋さ知らズの現場を思い出す。どんどん壊されていく100均雑貨の有様も馬鹿馬鹿しくて最高に盛り上がった。


最後はDJJabvaraの「オタクはBPM速い曲が好き!」というMCからエレクトロ中心のDJで終了。

すごいな、今までで一番ちゃんと音楽イベントになってるし、同じことやってない。1年前、ふらっと観にいった時から比べると不思議な感じだ。

その間にヒップホップで金を取る人が増えてくるわ、音源はどんどんドロップされるわ、すごい勢いで場が変化していく。

こんな場、変わりはないな。次どうなってるか予測がつかない。主催はもっと面白いことやりたいみたいなので、次からでも目撃者になりたい人は遅くないと思うよ。

 

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MAZAI RECORDS audiomack